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週末で読めないでいた間にも
Final Exitの自殺幇助疑惑に関する続報はわんさと出てきていました。

その中から以下のものを読んで、この間の動きを。


Don’t Confuse FEN Death And Investigation With Aid In Dying
The Medical News Today, February 28, 2009


Arrests open new front in assisted suicide fight
The Chicago Tributne, March 1, 2009/03/02



まず先週水曜日に逮捕された Final Exit の4人は仮釈放となり、
そのうちの1人、Lawrence Egbert医師がメディアに向けて発言しています。

他にも、Final Exitを創設した人物で
ヘリウムを使った自殺方法を指南した書 “Final Exit”の著者Derek Humphryと
(CA州の自殺幇助事件でJimmyさんが持っていたのがこの本)

代表の逮捕により急遽、代表となったJerry Dinicinもメディアに発言しています。

彼らの発言とその後の報道で明らかになったこととして、

・これまでの5年間に全米で200人以上の自殺に関与したとHumphry。

・4人の幇助で自殺したとされるCelmer氏の癌は、氏の主治医によると、頭と首の手術2回で完全に取り除かれて回復も目覚しく、Celmer氏が気に病んでいたのは癌ではなく手術によって外見が損なわれてしまったことだった。また自殺の2日前にCelmer氏はFinal Exitの援助によって主治医の診察を受けに来ており、主治医はその際に、3日後に精神科医の診察を受けるように予約を取った、とのこと。

・Celmer氏は腰の関節炎にも苦しんでいたが、ちゃんと痛み止めの薬を飲み、酒とタバコを控えれば痛みは軽減したはずだ、と、こちらは主治医ではなく供述書。

・Egbert医師は、ターミナルな患者の自殺に協力しただけで、厳しい審査をして実際にそういう病気だという確認を主治医にとった、と。「死ぬ時に苦しまなければならないのは神の意思だとして従う人はそれでいいが、無意味に苦しみたくないという人がいるなら私はその意思も尊重する」と。

・Egbert医師を始め、FENの幹部らは「苦しみの少ない自殺方法や、必要なものを手に入れる方法について教えてあげただけ。話をしただけで、直接手を貸したわけではない」ので違法行為ではない、最後まで闘う、と。

・APはこの点について、直接的な関与の有無によって法律的にも「幇助」の定義の線引きが明瞭になっていない問題を指摘しています。また同記事によると2006年の米国最高裁の判断により、自殺幇助を含む医療現場への規制については州に規制が任された、とのこと。

・現代表のDincinは退職した臨床心理士で、「こういう人たちは苦しんでいて、その苦しみは個人的な経験なのです」、「命は自分のもの。妻でもなく子どもでもなく牧師でもなく、自分の命について決められるのは自分以外にはいない」。また4人のうち2人の弁護士は「彼らがやっていることはホスピスでやっていることと違わない。ホスピスだって自殺であり、ただ時間をかけているだけだ」と。

(いや、「どうせ」と「せめて」は姿勢として真逆だと思いますが。)

・自殺幇助の合法化を目指す活動からの反応は2つに分かれており、終末期の患者に限ってOregon州などのように厳密な条件の下で合法化を目指す穏健派からは、Final Exitのやり方に批判が出ている。

・Medical News Todayの記事は同じく尊厳死アドボケイト団体のCompassion and Choicesのリリースで、自分たちの主張を一緒にされたくないとの懸念がありあり。

・このCompassion and Choicesのリリースによると、2008年に the American Medical Women’s Association, The American Medical Students’ Association, the American College of Legal Medicine, the American Public Health Associationの4団体が、精神的能力のあるターミナルな病状の患者に対して、医師が致死薬を処方して自殺を幇助することを支持する方針を出した、とのこと。Compassion and Choicesはこれをもって「ターミナルな患者に死に方についての説明と選択を認めるエンパワメントへのアメリカ社会の転換点」だ、と。

(しかし、よく見ると、医療職の職能団体とはいえ周辺的な団体のみ。)


ちなみに、
上記の Derek Humphry の著書は


日本でも翻訳が出ているようです。


Amazon.comの内容説明には
「苦痛なく死ぬ権利を求めて。
本書はまさに人間最後の「至福」のありかを探る問題作である」と。
2009.03.02 / Top↑
世界初の試験管ベビー誕生に関ったJeff Steinberg医師が経営する
ロサンジェルスの生殖補助医療のクリニック the LA Fertility Institutesで
出生前診断技術を利用して親が目の色や髪の毛の色などの特徴を選んだ
デザイナーベビーが来年誕生する、とのこと。

このクリニックでは性別の選択も行われており、
Steinberg医師は医療上の理由でも外見上の理由でも
出生前診断技術による選別はOKと。

「こういうことが危険な道を行くことだとは思いませんね。ただ未知の道だというだけで」

技術的にはずい分前から可能だったことなのに、
ただ医療現場が無視してきただけだ、とも。

もっとも目の色や髪の色については
完璧な予測は不可能だとHPには謳っているとか。

しかし英国の生殖補助医療の専門家らからは
科学技術をこういう目的で利用することには倫理的な問題があると、憤りの声。

どれが青い目金髪の遺伝子かが特定されれば
その他の胚は一体どうなるのか、

赤ん坊が店の棚から選んで買うのと同じ商品になってしまう、

好みの胚を選ぶために、わざわざ沢山の余剰胚を作ることが慣行化すれば
赤ん坊は選択できることが当たり前になってしまい、
滑り坂を避けることは出来ない……などの批判が。

一方、英国で4月6日に施行される新しい法律では
体外受精で母親になった人は出生証明の「父親」の欄に
誰の名前を書くのも、他の女性の名前を書くことも含めて、自由になるのだとか。

Designer baby row over US clinic
The BBC, March 2, 2009


あー、なんだか、よく分からないけど、
きっと人類は、核でも地球の温暖化でもなく
自らの愚かさによって滅びるんだろうな……。

科学とテクノロジーの世界の血迷よいごとニュースを見るたびに
そうつぶやくようになって久しい。
2009.03.02 / Top↑
雨宮処凛さんが朝日新聞に書いていた書評で気になって
堤未果さんの「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命」を読んでみた。

……といっても、実はこの本は
後に「ルポ貧困大陸アメリカ」に結実する著者のナマ体験がつづられた2006年の本で、
先に「ルポ」を読んでしまうと、ちょっとかったるい感じもあるのだけど
書かれていることは「ルポ」と基本的には同じで、

米国では2002年に作られた「おちこぼれゼロ法」によって
高校に生徒の個人情報を軍のリクルーターに渡すことが義務付けられ
格差を超えるためには大学進学しか手段のない貧困層が
奨学金の可能性で釣り上げられては兵士に仕立て上げられていく、
つまり貧困が徴兵装置として利用され、
社会的弱者がその弱みに付け込まれて
いいように使い棄てにされている、という現実。

ただ、サブプライム問題やリーマンショックを挟んで
「ルポ」を読んだ時とは状況が違っているために
ぎくりと思い至ることがあった。

米国型資本主義の暴走の限界や行き詰りを指摘したり、
新自由主義は失敗だったとか、この辺りでどうにか考えなければいかん……という話を
サブプライム問題を機に見聞きすることが増えているように感じて、

個人的にちょっと気になっているベーシックインカム構想などというのも
そういう行き詰まり感の中で「じゃぁ、どうすればいいのか」を考える1つの方策として
位置づければいいのかな……と考えたりしていたのですが、

この本を読んで初めて思いが至ったところというのは、

あ、でも、「行き詰っている」とも「どうにかしなければ」とも
全然考えていない人もいるんだよね……ということ。

弱肉強食の新自由主義で切り捨てられた人たちを
「どうにかしなければならない」という方向で考えると話は難しくなるけど、
そういう人間を兵士に仕立て上げれば「どうにかする必要」などないどころか
逆に、厳しい社会で生き残れない弱者の有効活用であり、

「社会に無駄なコストをかけるジャマな人間」がそれによって
「社会にとって利益となる人間」に逆転しコスト効率も格段に改善する──。

今のままの方向で突き進むことに、なんら問題はない──。

(日本の場合、報道から目につくのは派遣切りされた人たちを介護職に振り向けようとの動きですが、
雨宮さんは派遣切りにあった人たちに自衛隊の勧誘が行われていると書評で書いていました。)


そして、もちろん
堤さんが書いている
貧困が徴兵装置になるカラクリを
科学とテクノロジーでの国際競争に当てはめてみれば、
障害者・病者・高齢者というコスト高な医療弱者についても
”有効利用”の方法ならいくらでもある。

手っ取り早いところでは臓器の確保。
移植用だけでなく実験用の臓器も。

もちろんES細胞を作るのに必要な卵子も無尽蔵に供給できる。

植物状態の女性患者を代理母として利用することも可能。

様々な年齢や病歴を持つ、生きた人体を丸ごと実験利用できれば、
今は不治や難治とされる病気の治療研究だって飛躍的に進む。
老化のメカニズム研究やアンチ・エイジングの実験も思うままだ。

重症の知的障害者も脳死者や植物状態と大して変わらないし
どうせ抵抗・抗議する能力も言葉も持たないのだから、
知的障害者はもちろん、意思疎通が出来にくい人間もみんな含めてしまえば、
さらに、どうせ治療コストをかけたところで死が近い人間が自ら死を選んでくれれば、
社会的コストが大幅に削減されるだけでなく、
人類の進歩に結びつく利用資源が大量に確保できる一石二鳥──。


障害児・者にかかる「社会的コスト」がしきりにあげつらわれ、
高齢者への医療と介護が「金がかかるもの」の代名詞となり、
その一方で「死の自己決定権」が喧伝されていく。

テレビやワイドショーが取り上げる一つ一つの事件やニュースだけを
バラバラに見ていたら、なかなか感じられないけれど、
実はあまり報道されないところで起きている事件やニュースを介して
実はみんな繋がって、一つの大きなうねりの一部なのかもしれない……

Ashley事件との出会いをきっかけに
事件の背景や周辺を調べていくにつれて
それまで想像すらできなかったことが世界では現実に起こっているのだ……と
愕然とするような事件やニュースを目の当たりにして、
もうずっと、そんなことを懸念している。

だから
この本のプロローグの、こんな箇所にとても共感した。

政治家や大企業には勝てっこない。
どれだけ社会が変わるように願っても、一人ができることなんてたかが知れている。
みんなそう思ってあきらめちゃうんだ。
でも、俺たちみたいな普通の市民が力を手にする方法がたったひとつある。
それは真実を知ること。そしてそれをできるだけ多くの人に手渡すことだ。
ニュースからだけじゃわからないことがたくさんある。

(2004年に、抗議のハンスト行いながら大統領選の不正を訴えて歩いた男性の語り)
「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命」P.13


2009.03.02 / Top↑