2ntブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
【自殺幇助関連】

MA州の自殺幇助合法化法案の審議で、合法化を求め続けて亡くなった癌患者 Al Lipkinさんの妻が夫の思いを語った。
http://www.milforddailynews.com/news/state/x1487809065/Emotional-testimony-at-State-House-hearing-on-right-to-die-bill

NYで、保険金目当てで自殺したいと望む男性 Jeffrey Lockerさんに1000ドル上げるから手伝ってほしいといわれて、刺したKenneth Minorの裁判で、検察は自殺幇助の可能性を視野に入れつつ、殺人での立件も諦めていない、と。
http://www.mercurynews.com/breaking-news/ci_14463769?nclick_check=1


【その他】

今日は英国保健省が決めた Dignity in Care Action Day.「介護に尊厳を」アクション・デイ。今年から。尊厳大使も。でも、たまたまとはいえ、DPPのガイドラインが出される日と重なって、HPを覗いてみても、なんか空しい。
http://www.dhcarenetworks.org.uk/dignityincare/DAD/

子宮の組織というのは冷凍しておけば、解凍・移植によって機能するんだそうだ。その方法で、癌治療のために子宮の機能不全になった女性が移植を受けて、その後子どもを2人産んだ。2人目を産んだのは世界で初めて。最初の子は体外受精で、2人目は自然妊娠で。デンマーク。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8534227.stm

前からちらちら出てきているけど、生殖補助医療で生まれた子どもたちでは、出生後に遺伝子の異常から健康問題が生じる確率が高い。
http://www.medicalnewstoday.com/articles

「カリフォルニアの死のスパイラル」というタイトルの、クルーグマン先生の「なぜ米国の保険会社は急に保険料を釣り上げているのか」解説。http://www.nytimes.com/2010/02/19/opinion/19krugman.html?ex=1282626000&en=6e3cc02dd1c06e23&ei=5087&WT.mc_id=NYT-E-I-NYT-E-AT-0224-L20

フォークランドの石油の採掘を巡って、英国とアルジェンチンの間でまたも紛争が起こっているらしい。
http://link.timesonline.co.uk/r/72NZA87/UYT/B1OOA/1JO/7LUO/D5/h

患者によって乳がんの治療に反応しないのは、遺伝子エラーによるもので、それは対応可能だと科学者。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8530305.stm

メラミン入りの日用品に接している中国の子たちの大半が回復するものの、約12%に腎臓障害が残っている。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/180059.php
2010.02.25 / Top↑
Mid Staffordshire のNHSトラストのStafford Hospitalで、
管理運営側が政府の設置した目標やコスト削減を重視するあまり、
安全なケアを提供することをやめ、
「想像を絶する」苦しみを患者に与えた、
それらの劣悪なケアが患者の死を招いた、と
同病院のスキャンダルを調査したケアの質コミッションと保健省の報告書。

報告書によると、Stafford病院では、職員不足から
患者が何週間も身体を洗ってもらえていなかったり、
食べ物も飲み物も与えられなかったり、
トイレに行くことすらできなかったという。

中には汚物にまみれたシーツで寝かされている患者もいて、
家族が家に持ち帰って洗ってきたとか、

感染症を起こしたり、転倒したり、その転倒が死に至ったケースも。

多くのスタッフは最善を尽くしてはいたが、
看護師の中には勤務態度に問題がある人もいた。

これまでの同病院での死者数から考えると、
去年1年間にStafford病院で亡くなった患者数は400から1200人も増えている。

現在、複数の医師と少なくとも看護師1人に事情聴取が行われている。

経営陣が刷新され、
報告書でも18の勧告が行われて、
新しい経営体制で病院は出なおすことに。

しかし、報告書で同時に問題視されているのは、
ある病院で問題のなる運営を行った幹部が、
辞職に追いやられても、そのまま別のトラストに職を得てしまう
英国医療制度の構造上的な問題。

しかも、彼らは、そのたびに巨額の報酬や退職金を得ている。

(前からNHSは官僚主義的になりすぎているという批判を聞くのですが、
こういう「わたり」みたいなところも含めてのことなのでしょうか)

NHSの病院を監督し、
早期に問題を発見して警告を発する仕組みの必要も指摘された。

この病院で母親が悲惨な死に方をしたという女性が
Cure the NHSという運動団体を立ち上げている。

その名も、「NHSの病気を治そう」――。



病院での通常の医療がこういう状態で、
終末期医療では機会的に重鎮静にされて脱水死に持っていかれるのだとしたら、

そりゃぁ、病院に行かなければならない事態になる前に
死んだ方がマシだと考えるのも無理はないのかもしれないけど、

でも、だから、みんなで自分の好きな時に
好きな方法で死にましょう、という話になるというのも……。
2010.02.25 / Top↑
公訴局長DPPのKeir Starmer氏が
今日の法解釈のガイドライン発表を前にTimes紙に寄稿し
ガイドライン策定についての考えを語っています。

最初に明言されているのは

読んだ人からは、私が法律を変えたという批判も起きるだろうが、
法律そのものは変わっていない、
自殺幇助は懲役最長14年の犯罪行為であることは変わらない、という点。

一方、1961年に自殺法が制定された時に、運用は慎重に、と議会が求めたことに触れ、
だからこそ自殺幇助で起訴する場合には公訴局長の同意が必要となっているのだ、とも。

また、ガイドラインを制定することそのものに反対する声に対しては、
Purdy判決の中で最高裁が命じたことである以上、
公訴局としては従う以外になく、制定しないという選択肢は存在しない。

去年9月の暫定案の発表に次ぐ
国民のコンサルテーションで寄せられた5000人の意見を検討したところ、

多くの人が、起訴するかどうかの判断では
自殺した人よりも容疑者に焦点を絞るべきだと考えており、
それは説得力がある意見だと判断した。

同様に、多くの人が
容疑者の行為が全面的に共感・思いやりからのものであるかどうかがカギだと主張していた。
もちろん共感・思いやりに関しては、すべての証拠が仔細に検討されることになろう。

1つひとつの事件すべてについて十分な捜査が行い、
正しい判断をするために十分な情報がそろわなければならないことの理由の1つがそこにある。

また、つい最近の“慈悲殺”を巡る議論に照らして明確にしておきたいこととして、

ガイドラインは“慈悲殺”に触れていないが、
それはガイドラインが殺人と過失致死は扱っていないからである。

犠牲者が自分で死ぬのに手を貸すのが自殺幇助。
誰かの命を奪う行為は、まったく別の行為であり、
それは殺人もしくは過失致死として扱われるべきである。

この違いを、我々は全員が理解しておかなければならない。

事件には、それぞれ固有の事実関係と固有の事情があり、
それらにのっとって検討される必要がある。

‘Mercy killing’ is not the same as assisted suicide
Keir Starmer
The Times, February 25, 2010


どうも、あまり大きな変更はないような気配……?

DPPのサイトに行けば、既に発表になっているのだろうと思いますが、
今ちょっと手元が落ち着かないので、週明けに改めて。






2010.02.25 / Top↑
明日に公訴局長の法解釈のガイドラインの最終決定を控え、
Brown首相がDaily Telegraph紙に寄稿し、

法解釈のガイドラインで留めて、法改正まではするまい、
法改正よりも、現行法を使いこなしながら、もっと緩和ケアを充実させて、
苦しい死に対する人々の不安を解消していこう、と訴えています。

Gordon Brown: We must resist the call to legalise assisted suicide
Gordon Brown,
Daily Telegraph, February 24, 2010


個人的に響くものがあったので、
以下に全訳してみました。

過去80年間の間に、英国議会は何度も自殺幇助の合法化を検討し、却下してきた。この問題の議論がまた繰り返され、新たな提案が出されることとなった。その結論はこれまでのものと変わらないと私は確信している。

世論においては様々な事件があれこれと取りざたされて、事件が起こるたびに、まず目立つのは、何か手を打つ必要がある、という主張だ。しかし、これらの事件の1つひとつの複雑な詳細を個別に検討してみれば、自分の選んだ時に選んだ方法で死ぬ権利こそが配慮ある解決策だと思えたものも、それほど単純明快ではなく、むしろ問題だと思えてくるのに時間はかからない。

みんなが自殺幇助の権利を支持したい気持ちになるのは、自分が死にそうになった時に、どういうケアを受けられるのかが不安だからに違いないと私は思う。気になっているのは、次のような懸念だ。その時に、自分は一人ぼっちにされるのではないか? 痛い思いをするのだろうか? 尊厳も私らしさも失ってしまうのだろうか? 私のことを大切に思ってくれる人が誰もいないのではないだろうか? ただ生かされて、ほとんど治療効果などないのに死のプロセスを長引かせるだけの検査や治療をされるのでは?

私たちは、このような不安にもっとしっかりと目を向け、それらの不安に対して、これまで何をしてきたか、しっかり考えなければならない。

近年の医学の素晴らしい発展の1つは、緩和ケアという専門領域が出てきたことだ。緩和ケアについては、20世紀にホスピス・ケアの先駆者となった Cicely Saundersさんのエッセイについて調べて、私はずいぶん詳しくなった。

Saundersさんは、「不治の患者」たちがたどる運命と、彼らを見捨てい医療に憤り、画期的な研究と不屈の活動によって、人の最期の数カ月は、やり方によっては痛みのない、尊厳に満ちて、生きるに値したものになると訴え続けた。緩和ケアが現在、医療のメインストリームとして受け入れられているのは、彼女の努力に負うところが大きい。

私が魅力を感じた話がある。1969年に貴族院で安楽死法案を推し進めようとして果たせなかったRaglan議員は、その後、Saundersさんと公の場で議論した。その際、彼女の話を聞いたRaglan議員は立派な態度で認めたのだ。もしも自分が必ずやあなたとあなたのチームのケアを受けることができるのであれば、安楽死の合法化に向けた活動を喜んで放棄するだろう、と。

そのようなケアを多くの人が自宅で受けることができるようになるには、まだまだするべきことは沢山ある。しかし、政府の義務とは、苦しい死への不安を最小限にすることのはずだ。

医療介入がもはや効果がなく、不快なだけで、QOLを維持することもかなわず、ただ命を引き伸ばす役にしか立たないような過剰医療への不安も、最近ではずいぶん軽減されてきた。事前指示書を書くことによって、まだ健康で頭もはっきりしている内に、誰かにお任せになることを避けて自分で決めておくことができる(コントロールと決定権を行使できる)。ある先輩医師が後輩医師に賢明なアドバイスをしたという。「病者を癒し、死にゆく者は安楽に。そして、その両者を混同してはならない」。医師も、そんなアドバイスを実行することに以前よりも注意を払うようになってきた。

しかし、これらはすべて難しい問題であり、もちろん、1つ1つの事件の中心にいるのは過酷な状況の中で、最も悲痛な選択をしなければならなかった家族であることを忘れてはならない。

そうした複雑な背景はこれまでにも指摘されてきた。明日には公訴局長のKeir Starmer氏が最終的な方針を発表して、自殺をそそのかしたり、または幇助したといった事件で、訴追するかどうかの判断で考慮されるファクターを明確にすることになっている。公訴局長として明確化するのはStarmer氏の職責であり、政府が口をはさんだことはない。

公訴局長によって法解釈の明確化が行われるからには、また、ここ数十年にケアにおいて重要な前進があったことからも、法改正を必要とする議論には以前ほどの説得力はない。

法は、ケアに当たる専門職の価値観とスタンダードとともに、最も病状の困難な患者への緩和ケアを含めた良質なケアを支持するものである。そして、我々の社会の最も弱い人々を保護するものである。なぜならば、ここで、はっきりさせておこう。選択肢としての、または権利としての死が認められたならば、たとえ法改正によって如何なる事務手続きのプロセスが編み出されたとしても、人は死ぬ、ということ(限りある生 mortality)に対する我々の考え方が根本から変わってしまうからである。

自分が他者の負担になっていると感じがちな病弱な人たちや自分で身を守るすべを持ちにくい弱者に圧力がかかるリスクを、隠微なものも含めて、完全に排除することなどできない。さらに、もしも生を終わらせる立場に立つなら、医療の専門職に対する信頼が損なわれることも避けがたい。そうなれば、とても貴重なものが失われてしまうことになるだろう。というのも、私は妻とともに地元のホスピスでボランティアをした際に目にしたケアによって、良い死というものは実際にあるのだと痛感したのだ。

だからこそ私は強く思う。社会として我々がすべきことは、良い死を可能にする、専門的で愛のあるケアを提供することだ。そして、現在の法を急いで変えるのではなく、上手に使いこなすことだ、と。


この寄稿に関する報道は以下。



また、Debbie Purdyさんの反論がこちら。


英国人の95%が支持しているというのに、
首相はその世論を尊重する気がない。

オランダと米国オレゴン州で法が問題なく運用されているというのに、
首相は英国人を信頼できないらしい。

合法化すれば英国人が病人や障害者を殺すと思っているようだが、
自分はもっと英国人を信頼している。

合法化することによって、オープンな議論が行われて
人の命は却って救われるはずだ……など。
2010.02.24 / Top↑
昨日、火曜日、
マサチューセッツ州議会で自殺幇助合法化法案が審議入り。

元は胃がん患者の Al Lipkind氏が数年前から求め続けていたもの。

同氏が去年10月に亡くなった後、
Louis Kafka 州上院議員が遺志を継ぐ形で運動してきた。

法案は、ターミナルで、自己決定能力のある患者に対して
医師が致死薬を処方することを認めるもので
Oregon 州、Washington 州とほぼ同じ。

‘Death with Dignity Act’ gets public hearing
Patriot Ledger、February 22,2010


Massachusetts州といえば、ブッシュ政権時代に
無保険者問題に優遇税制で民間保険に誘導して済ませようとする中央政府に腹を立て、
州独自に皆保険に向けた努力を行って、ある程度の成果を上げてみせたところ。
マサチューセッツ方式と呼ばれて、カリフォルニアなど他の州の手本となった。

(こちらのエントリーで書いている「頑張って」いた州の1つがMA)

その後のことまでは追いかけていないけど、
当時、特に子どもの皆保険に同様に努力を惜しまなかったカリフォルニアが
現在、財政破綻の危機にひんしていることを思えば、
なんとなく想像がつくような気がする。

医療や福祉が充実している国でこそ
かつての優生思想も広く、長く続けられたことや、
今、そういう国こそが自殺幇助合法化の動きをリードしていることなど、
既に指摘されている事実とも符合する動きなのかもしれない。

また、一方、
Rebeccaちゃん事件でも言われていたけれど、
Harvard大学, Massachusetts General Hospital といえば、
かのBiedermanスキャンダルの現場。


それだけ医療の文化としても
「科学とテクノで簡単解決文化」が最も色濃い州だともいえるのかもしれず……。

そういえば、当ブログでずっと要注意人物と目している Norman Fost 医師も
たしかHarvard出身だった……。
2010.02.24 / Top↑
Brighton とHove という町単位で自殺幇助に関する住民の意識調査が行われている。76%が、耐え難い苦痛のあるターミナルな状態の人と高齢者の自殺幇助合法化に賛成。:町単位で意識調査が行われることそのものが、ちょっと、すごい。
http://www.theargus.co.uk/news/5019987.Assisted_suicide_should_be_allowed_says_Brighton/

地震での怪我で手足の切断を余儀なくされるハイチの人々。もともとリハ病院などなく、セラピストもほとんどいない国で、住む家すらない状態で、病院から道端での暮らしに。
http://www.nytimes.com/2010/02/23/world/americas/23amputee.html?th&emc=th

肝臓は特に子どもでは再生能力があるので、レシピエントの肝臓を一部のみ取り出して、ドナーの肝臓を移植することによって、拒絶反応を抑制する薬を飲みながら時間稼ぎをしているうちに、本人の肝臓が再生して、移植部分を攻撃し、退化させてしまう。そうすれば薬もやめることができる。
http://www.nytimes.com/2010/02/23/health/23liver.html?th&emc=th

英首相官邸のスタッフがイジメ相談に電話してきたことをリークした、イジメ相談チャリティの創設者が辞職。
http://www.guardian.co.uk/politics/2010/feb/22/national-bullying-helpline-patrons-resign

Obama大統領が新たな医療制度改革案を提案。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/feb/22/barack-obama-healthcare-reform

Obama大統領の医療制度改革案についての日本語報道。:日本のメディアも、見ていないわけじゃない……わけだよね。こういうニュースは、ほとんど時間をおかずに日本語で出てくるわけだから。じゃぁ、なんで、他のニュースは無視されるんだろう……? 
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/world/american_health_plan/?1266919689

使用済みのデジタル機器を安易に捨てると、健康・環境被害が生じる、という調査結果。
http://www.guardian.co.uk/environment/2010/feb/22/electronic-waste
2010.02.23 / Top↑
BBCの自殺幇助合法化問題に関する偏向報道については
ここしばらく、議員らから批判が起こっていましたが、

ついに自由民主党の大物議員が、その「信じがたいほどの熱心さ」について、
BBCトラストのチェアマンMichael Lyons卿に会談を要求。

要求の手紙を送ったのはCarlile上院議員。
弁護士で、政府の反テロリスト法の中立の立場で検討した人物。





2010.02.23 / Top↑
前のエントリーからの続きです。

ヌヌーとは、元は貴族やブルジョワに雇われていた乳母や「ばあや」のことで
転じて、現在は、個人に雇われるナニー、子守のこと。

 ヌヌーばかりでなく、家政婦、ヘルパーなど、家庭雇用を優先する政策は、80年代後半の失業と女性求職者の増加を背景に進められた。雇用が不安定で低賃金、女性のみの業界であることも批判の対象になっている。しかし、子育て、老人介護を負担する社会事業の発達が、働く女性(およびそのパートナー)の子供を持ちたい欲求に応え、出生率の増加に貢献したことは間違いないだろう。なぜなら、こうしたインフラが整った後の1995年に、1972年から20年間下がり続けたフランスの出生率は上向き始めたのだ。
(P.210)

著者の知り合いで、最近ヌヌーを使い始めた3人の子供の母親、セシールさんの言。

あたしのとこの子(ヌヌーを指す)は、申告してないし、労働許可もないの。経験だってないんだし、5ユーロ以上払うことはないわ。掃除もしてくれるのよ。知ってるでしょ。家政婦は高いのよ。1時間8ユーロ(約1100円)も取るもの。だからヌヌーで掃除もしてくれるのがいいのよ。ちょっと試してみて、すごくよかったら、9月から5ユーロ10サンチーム(約700円)に上げようかと思ってるの。友達にも、いろいろ聞いてみたけど、大体、5ユーロから5ユーロ50サンチーム(約750円)。一番良くて5ユーロ50ね。それ以上払うことないわよ。
(p.217)

そのほか、印象的だったのは以下の下り。

移民は一般的に高等教育を受けていない例が多い。労働許可を持っていないだけでなく、滞在許可さえない「不法滞在」のケースもある。そうなると個人で闇で雇ってもらえなければなかなか生計の道もないだろうから、雇われナニーというのは、とてもいい仕事なのだ。そうやって需要と供給が見合っているのなら、文句を言う筋合いもないのだが、それでも1つ疑問が湧いてくる。フランス女性の仕事と家庭の両立は、免状がない、あるいは行政上の書類がない移民労働者の働きに依存しているのだろうか?……。
(p.208―9)

ここは、「移民女性労働者」と書くべきところでしょう。

一方、自由と独立を求めて闘い、中絶合法化を勝ち取った世代の女性たちについて、
著者は次のように言い、

彼女の世代のフランス女性たちは、ピルと中絶の権利を手にし、「自由」と「独立」を求めて、出産、育児のような「女であることによる損」をなるべく軽減しようとし、それができた人たちだ。フェミニズムの影響下で、母性は高く評価されなかった。例え母親になっても、「子供なんかいないのと同じ」に見えることがプラス・イメージだったのだ。
(p.314-5)

そのような女性を母に持つ娘たちの世代には、むしろ
「ママンであること」はカッコいいことになってきている、と時代の変化を指摘する。

中絶が法的に許されている今、シングルで子供を産む女性は、子供の父親がいないという不利な状況で、子供を育てる責任を引き受けることを選択した勇気ある女性なのだ。彼女は尊敬されるべきことでこそあれ、差別の対象などにされるいわれはない。「自由意思による中絶」が許され、定着したことは、そういう意味でシングルマザーのステイタスを変えたともいえる。女性が職業を持って、一人でも育てられる経済力を持ったこともシングルで産むという選択を支えている。そしてそういう勇敢な女性には、尊敬と愛情を捧げる男性が、必ずと私が保障することはできないが、現れるものなのだ。少なくとも、フランスはそういうところだ。
(p.174)

しかし、どこだったか探せなかったけど、別の個所には、
フランスの男性は女性の社会進出によって家事・育児の参加時間が増えてはいない、とも
そもそも離婚率がものすごく高い、とも書かれている。

著者は最後に、現在、世界中で見られる「母性復権」の動きがあることを指摘し、
母性を一度徹底的に貶めることによって女性の地位が上がったフランスのような国では
むしろ歓迎できる動きであるにせよ、

未だに女性が子育てに縛り付けられていて、
子どもを産み育てにくい社会のままである日本までが、この動きに飲み込まれると、
せっかく子供を持たないことで自由になりかけた女性たちが
「母性」に縛り付けられて窮屈になってしまうのでは、と懸念している。


          ――――――


「男による解説」で山崎浩一という人が、
著者が描いた、子供を産み育てやすいフランス社会について
「フランスの家族は自立した大人の欲望の上に作られる」のだと興味深い分析をしている。

この本を読みながら、ずっと
「ケアの絆 - 自律神話を超えて」で考えたことが
頭の中によみがえり続けていたのだけど、

ここでも「自立」という言葉が出てきているのが目を引いて、

そこには、
「たまたま自力で自立することが可能な状況にある大人」と
さらに言葉を追加したい……と私は思った。

この本には、家事も仕事も子育ても軽やかにこなしながら、なおかつ
夫のために、シックで魅力的な大人の女性であり続けるフランスの若い女性たちの姿と、
そのためには家事も仕事も子育てもアウトソーシングすることが可能な制度、
また、それを許容・奨励する社会の意識が描かれているのだけれど、

フランスの女性は本当に「職業を持って、一人でも育てられる経済力を持った」のだろうか。

アメリカでも日本でも、
シングルマザーは社会のいびつさを一身に引き受けさせられているように見えるのだけれど、
フランスだけは違うのだろうか。

フランスが如何に子どもを産み育てやすい社会であるかを描き続けた著者が
いよいよ本書の終わりになって、まるで大したことでもないかのように紹介しているのは
3歳児以上が増えているのは、実際には高所得層だ……という統計。

「金持ちの子沢山」へとトレンドは変化しているということか……と最後になって
無邪気なつぶやきが追加されているのだけれど、

それならば、それは、本当は「パリの女は産んでいる」のではなくて、
「パリでは、金さえあれば、なんてことなく子どもが産み育てられる」
ということに過ぎないんじゃないだろうか。

この人は、代理母について、以下のように書いている。

……あれは抵抗がある、禁止する法律は正しいんじゃないか、と思っていた。けれども「代理母」になる人も、卵子提供者と同じような同情心の持ち主らしい。姉妹や親友など、身近な人の中に、子宮に問題があって子供が持てない人がいたりして、そういう人の苦しみを救ってあげたいと思った人が多いようだ。私は「代理母」になるほどの共感能力を持ち合わせていないが、自分のからだを「貸す」ことが割り切って考えられるのなら、子供をほんとうに欲しがっている人たちを幸せにすることは悪いことではないと思う。
(p. 101)

自分がたまたま自力で自立と独立を手に入れることができるところにいる人たちは、
世の中の人はみんな自力で自立と独立を手に入れることができているのだという前提で
もしくは「能力と努力をしたから運とは無関係に自分はここにいるのだ」という前提で、
つい、ものを考えてしまう。

そして、たまたま自力では自立することのできない状況に置かれている人のことには
想像が全く及ばなくなり、その結果、無意識のうちに切り捨ててしまう。

そして、そういう人たちの“欲望”を中心に、
経済だけじゃなく科学とテクノのグローバリゼーションとネオリベもまた
前へ前へと押し進められていく――。


2010.02.23 / Top↑
以下の本を読みました。


このブログでは英語圏以外の事情がなかなか把握できにくいので、
この本に出ていたフランスの生殖医療やその周辺に関する諸々を、
まず網羅的に以下にメモしておこう、と。


・最初の試験管ベビーが生まれたのは1982年。

・1994年に生命倫理に関する法律で生殖医療に制限が設けられた。
生殖補助医療が認められるのは婚姻夫婦あるいは2年以上同居している事実婚カップルのみ。
また、自然に生殖できる年齢の女性のみ。
(法的に明記されていないが一説には48歳まで、とも)

非配偶者間人工・体外受精は、生殖子のいずれかがカップルのものであることが条件。
代理母による出産も禁止。

配偶者死後の人工・体外受精も禁止。

・生殖補助医療で生まれる子供は全体の1.8%。(2000年の統計)
現在の体外受精の成功率は17%。
顕微受精は1994年から可能となり、成功率は現在20%。
チューブで精液を注入する人工授精も含めて、年間およそ1万5000人が生まれている。
体外受精の件数は年間4万件。患者の平均年齢は35歳。

・1999年PACS法(PACS連帯市民契約)

同性愛カップルに一定の法的権利を認めたが、子供を持つ権利までは認められなかった。
しかし、現実には99年の時点で400人の子どもが同性愛の親によって育てられている。
(カミングアウトする前の結婚でできた子どもたちも含む)

・同性愛カップルに養子の権利を認めているのはヨーロッパでは
アイスランド、ノルウェイ、スウェーデン、イギリス、オランダ。
ベルギーはレズビアンの人工授精を許可。

(自殺幇助でも新・優生思想でも“先進的”な国が多いことに注目しておきたい)

・養子の申請数は現在、年間6000件で米国に次いで2位。

 一方、フランス国内で養子になれる子どもの数は年間1000人程度なので
 ウエイティング・リストは現在2万組。
 年間3000件は海外から子どもを連れてくる国際養子縁組で、
 子どもたちが連れてこられるのはペルー、メキシコ、カンボジア、ベトナム。

・フランスの女性の75%は子どもが生まれても仕事を続けている(第1子の場合)。
 しかし、保育園は絶対的に不足している。(3歳児以下の保育園児率9%以下)。

そこで活用されているのが「ヌヌー」と呼ばれる個人雇いの専属ベビーシッター。
起源は貴族やブルジョワの子どもにつけられていた「乳母」とか「ばあや」。
現在は、移民労働者(違法滞在者も含む)の女性が多くにヌヌーとして働いている。

・1987年に、政府は自宅託児手当てを創設。
 0歳から6歳までの子供のために自宅で専属の乳母を雇う場合の補助として、
 社会保障制度の負担金を全額または一部助成するもの。
 自治体公認の「保育ママ」を雇う場合には1990年から全額。
2010.02.23 / Top↑
自殺幇助関連

来週発表される英国検察サービスの自殺幇助に関する法解釈のガイドラインでは、暫定案の条件を多少偏向して、いよいよ「裏口」免罪が始まることになるらしい。
http://www.telegraph.co.uk/news/newstopics/politics/lawandorder/7271843/Assisted-suicide-law-to-be-decriminalised-by-back-door-from-next-week.html

BBCも来週のガイドライン発表を前に、自殺幇助を希望する女性の談話。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/newsnight/8523128.stm


司教が、「死よりも、まず生を」と説いている記事なのだけど、長ったらしい副題だけを読むと、「苦しんでいる人が死にたいというのに共感するのは正しい」と言っているかのように読める。
http://www.telegraph.co.uk/news/uknews/crime/7271021/Bishop-Michael-Nazir-Ali-Promoting-life-rather-than-death.html

英国のリビング・ウィルの普及率など。もっと簡単に書ければ、半分くらいの人は書くのに、という調査結果。
http://www.telegraph.co.uk/health/healthnews/7280151/Half-the-population-would-make-a-living-will-if-it-was-easy-says-new-poll.html

米国Marylandでの調査では、66%が事前指示書を書いていなかった。:33%もが書いていたことの方が私には驚きだった。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/179582.php


その他

母親が外でフルタイムで働いていないと、母親だけでなく子供に対してまで世間の人の好感度が上がるらしい。母と子の関係についても評価が良くなる傾向があるらしい。:娘が養護学校の時代に、女性の担任から私が働いていることについて否定的な発言をされたことは数知れない。「子どもはやはり6歳までは母親が」と言った人は切れ者のベテラン女性教師で、その後、教頭になった。「私だって、ここまで働いてくるためには我が子を他人に預けながら働いてきたから」という視点で考えてくれるのは、たいてい福祉職の人だった。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/179747.php

Brown英首相に官邸でのイジメ疑惑。部下がイジメ相談に電話をかけたとかで。
http://timesonline-emails.co.uk/go.asp?/bTNL001/mHDPAZ2F/qZM7JZ2F/uM9ZZ6/xV6UMZ2F

福祉のセーフティネットは短期が前提なので、今回の不況で失業した人の長期にわたると予想される貧困問題には対処できない、という問題。
http://www.nytimes.com/2010/02/21/business/economy/21unemployed.html?th&emc=th

オーストラリアの首相が、世界の放射線ゴミの処分を我が国が担おう、と。地形的に最もふさわしいし、それによって干ばつ問題に対応するための資金も得られる、と。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/aust-has-a-duty-to-take-worlds-nuclear-waste-hawke-says/1756572.aspx?src=enews
2010.02.22 / Top↑
うへぇ。なに、これ? 
監視社会もここまで来ているの? ……というニュース。

Philadelphia郊外の富裕な地域のスクール・ディストリクトが
州の助成金を使い、「21世紀型のモバイルな学習環境を」といって、
2300人の高校生にノートパソコンを配った。

生徒たちは知らなかったのだけど、そのノートパソコンには
スクール・ディストリクトが好きな時にリモートコントロールでスイッチを入れたり
写真を撮ったりできる webcamカメラが内蔵されていた。

ある日、生徒の一人が副校長室に呼ばれて、
そのカメラで撮った写真を見せられて、
「ほら、あなた、家でこんな悪いこと、してるでしょ」と叱られたことから発覚。

生徒たちは親のサポートを受け、集団訴訟を起こした。
生徒と家族のプライバシーと市民権の侵害。通信法違反でも。

生徒だけではなく、家族や訪問客らも、そのノートパソコンは使っているので、
各家庭の家族や友人、知人の裸など、あられもない姿まで捉えられていたことに。

スクール・ディストリクト側はHPで
盗難や紛失時に起動するためにカメラを搭載しただけで、
それ以外の目的には使われたことはない、と。

(スクールディストリクトは日本の教育委員会に当たると思われますが、
一定の資金の手当てをはじめ、学校運営に対しての諸々の責任や決定権が
日本の教委よりも大きいんじゃないでしょうか。数年前に、ある州の小さな町で
障害児の個別ケアについてスクールディストリクトの責任者のお話を伺ったことがあり、
その時のお話の内容からの印象ですが。)



いや、でも、実際に、それで
“証拠”を突き付けられて叱られた生徒がいるわけだから……。

ちょっと見た目には、リアリティのない荒唐無稽な話のように思えて
思わず笑ってしまいそうな話なのですが、

2300台ものノートパソコンのすべてにWebcamを搭載する費用を考えたら、
ただ盗難や紛失時のためだけに、それほどの、お金を投じるものかなぁ……。
それだけなら、もっと簡単な発信機程度のもので、安上がりに済ませるだろうと思うんだけど。

これ、まぎれもなく現実に起こっていることなんだと思うと、なんとも……。


「踊る大捜査線」だったっけ、
あの映画シリーズが始まった頃(今調べてみたら1998年だった)って、
こんなに町に監視カメラが増えているなんて……というシーンに
まだ、みんな衝撃を受け、不気味さを覚えていたはずだったのに、

どこかで事件が起こるたびに
「きっとどこかのカメラに犯人の姿が……」と誰もが、すぐに考えるほど、
いつのまにか町の至る所がどこかのカメラで捉えられていることに
誰も違和感を覚えなくなってしまった……

……ということを、あの映画の話題が出るたびに、思う。





2010.02.22 / Top↑
1月16日に以下のエントリーで触れたRebecca Rileyちゃん事件の続報。


2006年に4歳のRebeccaちゃんが安定剤のオーバードースで死亡。
両親が「静かにさせるために」意図的に多量に飲ませたとして
殺人罪に問われていた事件です。

1月の記事では事件の事実関係がよく分からなかったのですが、
以下の心理学関係のサイトの小児科医のブログ記事によると、

2月9日に母親に第2級殺人(過失致死?)で有罪が言い渡されています。
父親の判決は来月で、こちらは殺人罪で起訴されている、とのこと。

Mother Guilty of Murder – Pediatric Bipolar Disorder Innocent
Lawrence Diller,
Psychology Today, February 20, 2010


で、このブログ記事の趣旨はというと、

母親が有罪になったことで、
Rebeccaちゃんに3種類もの強い鎮静効果のある精神科薬を処方した
Kifuji医師の方は無罪放免が決定した点をとりあげて考察、疑問を呈するもの。

主な論点は、

・Rebeccaちゃんに処方された薬がFDAの認可の適応外の処方だったことから、
現在の米国では、医師免許さえあれば、FDAが認可している限り、
どんな目的・理由でも処方することが可能であることの問題を指摘。

・Kifuji医師はRebeccaちゃんが2歳の時に多動があるとして薬を処方し始め、
3歳の時に双極性障害に診断名を変更している。
その際には、母親の言うことだけを材料に診断したと裁判で語っている。
また同医師は9歳と7歳の兄弟にも家族の既往歴などから双極性障害を診断している。

・Rebeccaちゃんが死んだ直後、Kifuji医師は診療を停止し、
ライセンスも一時的に停止されたのだが、現在は職場復帰(Tufts大)している。
大学側はRebeccaちゃんへの診療は通常の医療スタンダードの範囲だと主張し、
当初からKifuji医師を擁護していた。

・しかし、精神科以外の医師に、3歳児が3種類もの精神科薬を処方されていたと話すと、
誰もが信じられないといい、その医師こそ被告席に座るべきだと考える。

・そのあたりには、事件がMassachusetts州New Englandで起きたという事実の
特異性があるのではないか。

Tufts大学と、あのBiederman医師が勤務するMGHとの距離はごく短い。

Biderman医師と言えば、
2歳児、3歳児に双極性障害を診断して薬を飲ませる風潮を作った人物で
児童精神科医療における巨星だが、一昨年から去年にかけて
製薬会社との癒着が次々に明るみに出た。
(詳細は文末にリンク)

その「お膝元」で起こった事件であるだけに、
同じ事件がそれ以外の地域で起こった場合以上に、
Kifuji医師を擁護する勢力が大きかったのではないか。

・そもそも乳幼児に双極性障害を診断できるものなのか、にも疑問を呈し、
そのうえで、2013年に改定される精神科の診断基準では
事実上、小児への双極性障害の診断は放棄されて、
temper dysregulation disorderとして、
薬物治療よりも環境を変えることに重点が移った、と。

・現在の社会状況と精神科医療の多忙の中で
やむを得ない現実として受け入れられてしまっている節もあるが、
双極性障害の診断による子どもへの安易な精神科薬の投与については
第2、第3のRebeccaちゃんが出ないうちに見直すべきである。


私が、すごく気になるのは、
この人が最後に、「ついで」のように書いている部分で、

双極性障害を診断されるような子どもらでは
彼らが置かれている家庭環境に問題がある場合が多く、
現実には薬以外の介入が難しいために
薬で対処でもしなければ子どもが施設に入れられることになる、
施設に入れられれば、どうせ何種類もの薬を飲まされてしまのだから、
忙しい診察室で毎日毎日こういうケースに直面しては
一日に何度も、そういう倫理的な判断を迫られる医師にとって、
子どもたちを家庭や養子制度の範囲内に留め置いて
施設に入れることを避けるための“最後の手段”になっている。


私にとっては、何よりも肝が冷えたのは、
この最後の部分の論理が、Ashley療法の擁護論とそっくりだということ。

重症児が施設に入れられると、それはもう悲惨この上ないことなのだから
(必ずやレイプされるというトーンまで)
ホルモン大量療法や外科手術で健康な臓器を摘出してでも
いつまでも親に在宅でケアしてもらえることが本人の幸せ――。

それほどひどいなら親亡き後への親の不安を払しょくするために
米国の施設ケアこそ改善する必要がある、と指摘する声は
倫理学者のArt Caplan から論争のごく初期に出た以外には、
どこからも出ないままに。

そして、もう一つ、肝が冷えるのは、
こんなふうに精神科薬で社会に都合のいいように人をコントロールすることの正当化の論理が成り立つなら
つい先日、日本の製薬会社の主催したセミナーで使われていた
QALYの論理とも通底していくのではないかと思われること。

認知症患者にドペジネル塩酸塩を使ったら本人と介護者のQOL効用値が上がった、
薬を使って本人と親のQOLを維持できるなら、それもまた治療の利益であり、
そこに医療費削減効果もあるならば、それはコスト効率のよい優れた医療である、と。

          -----

Kebichanさんのブログ「精神科医の犯罪を問う」に、
2008年にCBSがこの事件を取り上げて母親にインタビューした番組が紹介されており、
Biederman医師も登場しています。

とても興味深い記事なので、以下にリンクさせていただきました。


【4月14日追記】
Kebichanさんのブログが日本語の続報を紹介しておられます。
4月4日に父親の方にも有罪判決。





2010.02.22 / Top↑
BBCのRosling氏の“慈悲殺”の告白を受けて、
今度は77歳の男性が、ハンチントン病の妻の自殺を手伝ったと告白。
さぁ、警察は逮捕に来るなら来い! と。

元看護士の妻は病状が悪化してきた時に、
まずは病院での安楽死を望んでいたのだけれど、
警察が介入して不可能となったために
どの薬なら死ねるかを夫のBarrie Sheldon氏が調べて
致死量の抗うつ薬を手に入れてあげた。

それを妻に渡してから、一週間ほど家を空けた。
帰ってみたら妻は死に切れずに苦しんでいた。
その後、病院で死亡。

警察に事情を聞かれた際には、妻が薬を飲んだ時にどこにいたかが問題となったので、
あの時に家にいるべきだった、と今は後悔しているのだそうだ。

警察も病院も、腹立たしくてならない、という。
だから、すべてを明かすことにした。

何が腹立たしいのかというと、
政治家も法律家も医師も、妻が生まれてくることは許したくせに、
自殺幇助を受けることは認めなかった、と。

I have a burning resentment of the police, the great and the good. The politicians, legal and medical professionals allowed her birth but didn't give her the possibility of assisted suicide. This is a gross injustice and it has wrecked my life.

man ‘assisted in ailing wife’s suicide’
The Guardian, February 19, 2010


まだ、じっくり考える時間はないのですが、
指摘しておきたいのは3点で、

①こうやって、「私も自殺を手伝いました」「私も殺しました」と
次々に人が名乗り出たからといって、それによって、
自殺幇助が正当化されるわけじゃない。

それなのに、英国の自殺幇助合法化議論は、
中身の空疎なイメージで流されていく。

②ハンチントン病は遺伝性だということを考えると、
生まれてくることは許容したくせに、
自殺幇助はさせないのはフェアじゃない」という言葉には
簡単に聞き流すわけにはいかないものが含まれている。

安楽死・自殺幇助議論は、
やっぱり科学とテクノが社会の価値観を変容させて出てきた優生思想と繋がっている。

③どちらも、違法行為だという点では同じなのだけど、
死にたいという人に薬を手に入れてあげる行為と
死にたいという人を枕で窒息死させる行為とが
どちらも「自殺幇助」とくくられてしまうのは正しくないと思う。

前者は「自殺幇助」かもしれないけど、後者は「殺人」でしょう。

ところが、去年9月のDPPのガイドラインでは
そこのところ(自殺幇助の方法)がきっちり区別されていないので、
来週にも出されるという最終ガイドラインが非常に気になるところ。
2010.02.20 / Top↑
ああ、よかった。

カナダで「無益な治療」訴訟になっているIsaiah Mayくんの呼吸器が
Victoria BCのRichard Taylor 医師の診察を受けるため、
少なくとも3月11日までは継続されることになったようです。
(詳細は文末にリンク)

本当に、よかった。

取り外しに反対してきた Euthanasia Prevention Coalitionでは

これが認められてしまうと、
死に直面しているわけでも脳死でもなく、呼吸器から利益を受けている人からの
呼吸器の取り外しが、しかも親が続けてほしいと望んでいるにもかかわらず行われることは
悪しき前提を作ってしまう、と。

(私も同感!)

また、ここ数年「無益な治療」論が
治療そのものの無益から、どの患者が無益かを分けることに使われている、として
無益な治療論にも反対。

(同感! )


Baby Isaiah will remain on ventilator until at least March 11
Euthanasia Prevention Coalition, February 19, 2010


Ashley事件の首領とおぼしきNorman Fostなんか
07年から堂々と「患者の無益」論を説いていましたけど、

あれから3年近く経って、
無益な治療論も、患者の無益論も欧米社会に着々と広がりつつあるというのに
日本では、まったく報じられることも議論になることもない。

ほんと、不思議な国だ――。


2010.02.20 / Top↑
昨日の朝日新聞の家庭欄に
「機械担う 排泄ケア」という見出しの大きな記事があって、
尿吸引おむつ、「尿吸飲ロボ・ヒューマニー」とか
トイレ付きベッド、自動排泄処理装置「エバケアー」が紹介されていた。

こういうものは、前にも、こちらのエントリーで取り上げたことがあって
自動排泄処理装置・シャワーシステムベッド(2008/10/15)

介護というか人間の体というのは、
そうそう簡単に、頭で考える理屈通りにゃ、いかないのよね……と思うし、
いったい人を何だと思っているんだ……ともムカつくのだけど、

ついに新聞にデカデカと登場するところまで、流れはきてしまったかぁ……。

(朝日新聞の家庭欄は最近とても“科学とテクノ”に傾斜していて
まるでNHKかBBCみたい)

「尿吸飲ロボ・ヒューマニー」は
特殊な尿パッドにセンサーが仕込んであって、
機械本体とチューブで繋がっているので、
センサーが尿を感知すると、モーターで本体に吸飲する、という仕組み。

もっとすごい「エバケアー」については、ぜひともこちらを。

ちゃんと介護保険の補助対象になっているそうだから、
これまた、考えたら、えらいことだ。

だって、厚労省のお役人さんたちが、
この路線で行こうとしているってことでしょ、それは。……ひょぇぇ。

このベッド、上のリンクを見てもらえば分かるけど、
股間に直接プラスチックだかシリコンだかの装置を取り付けられて、
その上をシーツと一体化したおむつカバーで覆われる、
つまり、腰をベッドに固定される、という、全くもって、ひどい話。

拘束になるという問題は記事でも指摘はされているけど、

寝返りが一切できないんだから、
背中も腰も、器具が当たっている陰部も
じょくそう だらけになりますよ。

それに、年寄りや重症障害のある人だったら、
すぐに肺炎になって死んでしまいますよ。

――と、朝、新聞を読んで、思った。

その後は、一日中、ずっと忘れていたのに、
さっきトイレでオシッコしてたら、突然、頭の中に、
もっと、ずうううううっと、おぞましい想像がひらめいてしまった。

そんなのより、もっと、ずっと簡単で、合理的で、
拘束にならない、「お手軽排泄ケア」がある……って。

まだ十分に口から食べられる人に
さっさと胃ろうを作って介護の手間を省くのは
もう、とっくの昔に当たり前の“医療”になっているらしいから、

なにも、肌に不快な、こんな装置をつけなくったって、
まだ自力でおしっこができる人に尿管カテーテルを入れてしまえば、いい。

それとも、胃ろうと同じく、
おなかにもうひとつ穴を開けて、膀胱にもボタンをつける?

でも「大」はどうするんだって? 「大」には人工肛門があるっしょ。

ベッドに寝ている時は、それこそパウチにセンサーと吸飲チューブをつないでおくだけで
腰を固定されることもなく、自由に体を動かせる。

パウチの吸飲チューブをはずせば、
大・小のバッグを体にくっつけたまま(外から見えないように工夫してね)、
ベッドから出て自由に行動することも可能だ。

オシッコやウンコを漏らしたらどうしようと不安を感じる必要もないし、
お尻にウンコがくっついたまま気持ち悪い思いをしなくてもいい。
お尻はいつも清潔・快適だし、部屋は臭わないし、

「エバケアー」なんて、ぜんぜん比べ物にならない、高いQOLを得ることができる。

排泄介護が必要な人への
尿管カテーテルや人工肛門の適用は
たぶん、QALYの“効用値”も高いんと違います?

だって、ほら、エーザイとファイザー主催のセミナーでの発表によると、
認知症そのものには治療効果がなくても、
本人さんと介護者さんのQOLを測るQALYの“効用値”が上がれば、
その薬には医療費削減効果がある、だから行うに値する医療だ……という話でしたよね。

つまり、これからは、
病気や怪我だけじゃなくて、患者と介護者のQOLまでが
薬やテクノロジーを含めた「医療」とか「治療」の対象になる、ということでしょう。

じゃぁ、やっぱり、方向はこれで決まりなのでは?

一度は「尿吸飲ヒューマニー」とか「エバケアー」が注目されるかもしれないけど、
所詮は本物の介護を知っている人から見たら全く使い物にならないシロモノ。

やっぱり、ダメだったかぁ……ということになったら、
(その間に、どれほどの人が犠牲になるのかを考えると、本当に痛ましい)
多分、次に出てくるのは、そういう医療化の話なのでは?

まだ口から食べれられようが、自力でトイレに行くことができようが、
食べさせたりトイレに付き添うような贅沢な人手はないし、粗相されても困るから、
それに、本人さんのQOLだって維持向上できるんだし……ということで、

栄養と水分は胃ろう――。
オシッコはカテーテル――。
ウンコは人工肛門――。

きっと、これが、QALYが普及した未来の
“要介護状態の人と介護者のQOLを守る”基本ケア3点セット――。

その際は、きっと
「QOLを中心に社会的利益」 vs 「身体・医療上だけの害とリスク」を比較検討すれば、
「利益の方が大きいから、倫理的にも妥当な医療」だと結論されるんだろうなぁ……。



いかに頭に想像がひらめいたとはいえ、
まったく悪い冗談で、スミマセン。

でも、この基本ケア3点セットの合理性って、
考えてみたら、”Ashley療法”の論理そのもの……。

Ashleyはまだ口から食べることができていたらしいのに
しょっちゅう病気で食欲が落ちては脱水になるからといって
5歳の時に、さっさと胃ろうにされてしまった。

――予防医学の次のトレンドは、QOL維持向上医療。これかもしれない。

すなわち、”科学とテクノ”による”社会の都合”に合わせた”人体改造”……。
2010.02.20 / Top↑
自殺幇助関連

BBCの障害者サイトOuch!で、Disability Bitchが自殺幇助議論に参戦。あたしゃ、生きる、と。
http://www.bbc.co.uk/ouch/opinion/b1tch/db_loves_life.shtml

Gosling氏の事件を機に、これまでの英国での医師による安楽死事件をまとめたJeremy Laurenceという人の記事。Dr. David Moor、Dr. Nigel Cox。で、Laurenceによると、医師は自分では安楽死させているし、実際、英国でどこまで広がっているか誰にも分からないけど、Goslingが言うように、患者の家族が殺すのを黙認することはない、と。:医師には自分の判断で殺す資格があるけど、家族は医療職じゃないから殺す資格がないと思っているから?
http://www.independent.co.uk/opinion/commentators/jeremy-laurance-do-doctors-ever-assist-suicide-1902991.html


Ashley事件関連

Hastings Centerのサイト Bioethics Forumに、オレゴン在住のインターセックス・アクティビストで、Ashley事件に関してたびたび現地からシンポ報告をしてくださった小山エミさんが、ホルモンによるインターセックスの胎児治療実験を巡る最近の論争と、Ashley事件をもとに、バイオエシックスと倫理学者が医療倫理において果たしている役割について疑問を呈する文章を書いている。:そうだ、そうだ! ”科学とテクノ”の御用学問めっ。それから特に末尾のところ、成長抑制ワーキング・グループに入っていた障害学の学者さんたちへの失望感が書かれているところ。例えばこの人とか、さ。
http://www.thehastingscenter.org/Bioethicsforum/Post.aspx?id=4492

開発途上国で医療スタッフに基本的な新生児ケアの研修を行ったら、死産が激変した。ゲイツ財団、ちゃんと、こういうこともやっているのね。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/179558.php


その他

92年の Yale Law & Policy Review の論文が引っかかってきたのだけれど、無料で読める最初の1ページによると、年寄りを持て余して家族が病院のERに捨てていくケースが増えて、病院がそういうのを “Granny Dumping”(文字通り「姥捨て」)と呼ぶようになり、なんと辞書にまで入ろうとしている、と。:私がニュース検索を始めた2006年頃には、今度は病院が障害のある貧困層の患者を救急車に乗せてアブナイ地域に捨てに行くpatient dumpingが話題になっていたけど。
http://www.jstor.org/pss/40239388

財政難と対象者急増で、ほとんどの州がメディケイドの給付カットを検討している。
http://www.nytimes.com/2010/02/19/us/politics/19medicaid.html?th&emc=th

この写真は本当に胸が痛む。雪の積もった舗道で、強制立ち退きで運び出された家財一式のそばに立ちつくす黒人女性。貧困層の住む町で、強制立ち退きの狙い目にされるのは独居の黒人女性。:あらゆる差別が牙を剥き始めた世界。
http://www.nytimes.com/2010/02/19/us/19evict.html?th&emc=th

黒人でも女性でも貧乏でもエリートの仲間入りできるように我々は世の中を柔軟につくりかえてきて、実際にそれは成し遂げられて、今のエリート層は以前よりも多様で優秀で能力も高くなっているのに、エリート層への社会の信頼が今ほど低かったことはない。なぜか、という考察。:なぜって、そんなの成し遂げられるどころか、格差も格差の世襲もさらに広げられちゃってるじゃないですか。なに、寝とぼけたこと、言ってんですか。……と思ったけど、肝心の考察部分はちゃんと読んでない。
http://www.nytimes.com/2010/02/19/opinion/19brooks.html?th&emc=th

世界のトップ3000企業で2,2兆ドル分の環境破壊をやっているんだと、国連の報告書。
http://www.guardian.co.uk/environment/2010/feb/18/worlds-top-firms-environmental-damage
2010.02.19 / Top↑
オスカーには安楽死や自殺幇助を支持する映画がしょっちゅうノーミネイトされる。
今年も “The Last Campaign of Booth Gardner”というドキュメンタリーが候補に入っているらしい。

しかし、とっても摩訶不思議なことに、

この映画、ウェブ・サイトもなければ、予告編すら、ない。
それどころか、制作会社のサイトにも登録されていない。
どこかの映画館で上映された形跡もない。

はぁ……?

主役は、1985年から1993年までWashington州の知事だったBooth Gardner。
現在はパーキンソン病を患っており、

WA州で尊厳死法を成立させた08年の住民投票に向け
大規模なキャンペーン the Iniiative -1000を成功に導いた立役者。

もっとも彼自身は、ターミナルな患者に限らず、
望む人なら誰にでも医師による自殺幇助が認められることを目指していたらしい。



なんというか、
やっぱり合法化ロビーの方が
圧倒的に大きな資金と権力を握っているということなんじゃないか……、と。

なにしろ、08年にDignitasがALSの患者さんの自殺映像を流すや、
あっという間に世界各国で流されたみたいですから……。

WA州では、去年のGig Harbor映画祭にも
The Suicide Tourist という作品が出品されたけど、
その中の半分は上記のALS患者、Ewertさんのもの。

詳細は以下に。



【3月7日追記】
その後、以下のシアトルの新聞がとりあげています。
http://www.seattlepostglobe.org/2010/03/06/will-short-documentary-on-former-gov-gardners-assisted-suicide-crusade-win-an-oscar

【3月8日追記】
オスカーは取れなかったようです。
http://www.sun-sentinel.com/entertainment/sns-ap-us-oscars-list,0,7758989.story
2010.02.19 / Top↑
英国NHSで、大赤字の病院が一つ、民間企業の経営に。英国医療の新時代。:はたして吉の方向なのか、それとも凶なのか。まさか、このまま一気に米国の医療の後を?
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/article7031332.ece?&EMC-Bltn=NKTGW2F

子どもの将来の能力は9カ月時に決まっているって。:ナントカ決定論的“科学”に、そろそろ歯止めをかけてほしい。少なくとも、研究結果を提示する時のトーンを何とかするべきだと思う。
http://www.guardian.co.uk/society/2010/feb/17/children-fall-behind-nine-months

Desmond Tutu大司教を含め、アフリカ南部の5人のDNAが読解された。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8519954.stm

貧しい女性が乳がんになると、金持ち女性よりも治りにくいのは、健康的な生活を送れないうえに受診が遅れるからだというのがこれまでの説明だったけど、そうじゃなくて、貧しい生活を送ることで遺伝子変異が起こりやすくなるという遺伝上の説明がついたんだそうな。:そんなの、それだけで説明がついたなんて思わないでほしい。というか、頭の固い科学がそういう思考回路から抜け出せないものなんだったら、たまには科学を忘れてフツ―の柔らか頭の常識というものを取り戻そうよ。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8517027.stm

オーストラリアの研究で、現在ADHDに用いられている薬は効いていない、とのショッキングな結果。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/drugs-dont-work-for-adhd-study/1754396.aspx?src=enews

冷蔵しなくて大丈夫のワクチン製造技術をOxford大学が。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8520825.stm

日本の捕鯨船に対するシーシェパードの攻撃の件。Peter Bethune氏は、捕鯨船に乗り込んで殺人容疑で船長を「市民逮捕」するつもりだったんだとか。
http://news.bbc.co.uk/go/em/-/2/hi/asia-pacific/8518850.stm
2010.02.19 / Top↑
テレビでかつての恋人の慈悲殺を告白して逮捕されたBBCのキャスター
Ray Gosling氏(70)の事件の続報。

Guardian誌によると、
10年以上前からGosling氏の友人の数人はその出来事について聞いていた、とのこと。

その恋人とGosling氏の約束は双方向で、
どちらかが辛い状況になった時にもう一方がそうする、というものだった、とか
その恋人がエイズになる前からGosling氏とは知り合いだったとか、
その出来事は20年くらい前のことだとか、
今となると、まぁ、みなさん、メディアに向けて、よくしゃべっておられます。

あるゲイの権利アドボケイトは
「話の流れで、そういうことは聞いたけど、それだけ。
彼も、軽い口調だったし、起こってから何年も経ってたし。
自分としては自殺幇助だと受け止めた。
すごく勇気ある行為だ。
特に病院という公共の場所でやったわけだから。
その相手がとても苦しんでいたのも知っているし、
前から、どちらかがそうなったら、もう一方がやると
約束していたんだとRayも言ってたから」

この人は、
被害者の名前も、それがおこった場所も分からなかったから、
警察に通報することは考えなかったという。

それに
「Rayは生まれついての殺人鬼というわけじゃない
話は聞いても、それが犯罪だということは頭に浮かばなかった

BBCのRadio4のプロデューサーも先月、聞いていた。
「ショックだったけど、自殺幇助として話していたから。
長年Rayを知っているけど、殺人鬼とかいうような人間じゃない
とても人間味のある人だ
普通の人の人生の大切さにとてもこだわっている。
自分の人生を、番組作りに使おうと思ったんだろう。
エピソードの一つとして使えると思ったんだろう」

(ここで2人とも「殺人鬼じゃなかったら、つまり悪意じゃなかったら、殺しても犯罪じゃない」という
無意識の前提に立ってものを言っていることが、今の英国の空気を象徴して、とても興味深い)

BBCは番組でこの告白を放送したことについて

We believe we have handled the report sensitively and appropriately.
We kept him fully informed about our representation of his story in the report and he understood that a revelation of this nature could have a number of consequences.

番組の取り上げ方は配慮もあって適切だった、と思っているんだそうな。
告白することについてはBBCとしてはちゃんと本人に説明もしたし、
こういう告白をすれば、どうなるか本人は分かっていた、と。

でも、ご本人は逮捕されるなんて考えてなかったらしくて、
Radio 4の仕事で出張の予定を入れていたとか。




日本語では、こちらのAFPが17日付で。goo は今日ごく簡単に。
http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2696671/5343997
http://news.goo.ne.jp/article/reuters/world/JAPAN-139487.html

だって、天下のBBCが世論誘導を取り沙汰されている真っ最中の、この事件。
英米では大騒ぎしてますけど、相変わらず日本の主要メディアは鈍い?


【19日追記】
その後、Gosling氏は保釈されました。
今のところ起訴されていませんが、警察は周辺人物に事情を聴いている模様。


【23日追記】
恋人の名前は明かさないと言い張っていたGosling氏ですが、
警察にだけは明かしたようです。それを条件に保釈された模様。



2010.02.18 / Top↑

この記事によると、ご本人はテレビで告白した後、
「これが殺人だとは私は思わない」と語ったらしいですけど、

その番組が放送された当日月曜日の晩、
Ray Gosling氏は警察に逮捕されたそうです。

現在、警察で事情を聴いているところだとか。


NYTimesも、この事件を取り上げています。
http://www.nytimes.com/2010/02/18/world/europe/18britain.html


「恋人を枕で窒息させて殺しました」とテレビで堂々と「告白」して
それで警察が来なかったら、そっちの方が、よほど、おかしい。

それとも、ここのところの「愛情から殺す慈悲殺はOKにしろ!」騒ぎ
英国人にとって法律なんて意味がなくなってしまっているのでしょうか。

まぁ、慢性疲労症候群で寝たきりの娘の血管に
致死量を超えるモルヒネと空気を送り込んで殺しても、
裁判で「自殺幇助であっても、愛からしたこと。殺人だとは思いません」と主張した母親は、
見事に無罪放免されたばかりか、

「こんなにも愛と献身に満ちた母親を起訴するなんて」と
裁判官が公訴局まで叱ってくれたのだから(Gilderdale事件

もう慈悲殺は英国ではOKなんだぁ……と、
うっかり勘違いする人が出てきたって、ちっとも不思議ではない空気ですけど。

私としては、その時に席をはずして、
帰った時に「死にました」と言われて殺人を黙認した医師にも
ついでに探し出して、事情を聴いてほしいと思う。
2010.02.17 / Top↑
Dr. Landosのコメンタリーに続き、
AJOBのDiekema&Fost論文に対するAdrienne Asch のコメンタリーを読みました。

批判の論点は主に、

・Diekema & Fost が用いている功利主義的な検討(利益vs リスク/害)では不十分だが、
彼らの功利主義的な検討そのものも不正確である。

・2人は、成長抑制を行うか、または成長したら施設に入れるかの
2者択一しかAshleyにはないかのように論じているが、それは偽り。
ALSのような重症者を含めた多くの障害者が地域で暮らしている現実を考えれば、
社会資源さえ十分であれば、成長抑制を必要とする親の懸念は払しょくできる。

・Diekema&Fostのもう一つの誤りは、Ashleyの認知機能の低さを正当化に使い、
自己意識がある人にしてはならないことでも、自己意識のない人にはしてもよいとの
線引きを行っていること。

ここには2つの誤りがある。
1つは、道徳的に許されない行為は、相手がどんな人であれしてはいけない行為である。
レイプが何かを分からない人に対するレイプは犯罪であり、これは判例がある。

また、Ashleyの認知程度は医師らが考えているよりも高い可能性がある。

Growth Attenuation: Good Intentions, Bad Decision
Adrienne Asch, Yeshiva University
Anna Stubblefield, Rutgers University-Newark
AJOB, January 2010


論点は、これまで多くの人が指摘してきた点とだいたい同じです。

実は成長抑制は身体障害からくる介護負担軽減を目的にした行為でありながら
知的能力の低さをアリバイにして障害者の中に巧妙な線引きをしている点、

そして、世間の人や障害学や障害者のアドボケイトの中にも、
無意識にそういう線引きがあるからこそ、それがまかり通ってきたのだという点は
当ブログでも以下のエントリーなどで指摘してきました。



ちょっと驕った言い方になって申し訳ないですが
Aschよりも私の方がよほど理路整然と切り込んでるじゃん……と
歯がゆさを感じるほど、このコメンタリーは、ぬるい。

でも、この生ぬるさには、ちゃんとワケがあるわけで……。

私はAschのコメンタリーには、ずっと、
一方ならぬ関心を持って心待ちにしていたのですが、

それは、Aschが
シアトルこども病院、Truman Katz 生命倫理センターが作った
成長抑制ワーキング・グループのメンバーの1人だったから。

09年1月のシンポ
成長抑制には倫理的に問題はなく、重症児に絞って一般化しよう、
それについては特に裁判所の命令など必要ではない……という
「妥協点」を発表した、あのWGです。

私は、このAschのコメンタリーの意味は
その内容よりも、むしろ最初のページの脚注にこそ、あるんだろうな、と思う。

One of us, Adrienne Asch, is a member of the Seattle Growth Attenuation and EthicsWorking Group that recently concluded work on a statement on the Ashley X case entitled “Evaluating Growth Attenuation in Children with Profound Disabilities” (Diekema and Fost are alsomembers of that group). Asch signed the group’s statement in support of the process through which the statement was produced,although she does not support all the conclusions drawn in the statement, as is evident from the following commentary.

WGのメンバーとして、
成長抑制は一般化に値すると評価する結論にAschも署名をしたが、
それは、そのstatementが作られたプロセスを認めて署名しただけであって、
このコメンタリーで明らかなように、その結論を支持しているからではないのだ、と。

んな、バカな――。

内容を支持できないのに、
プロセスは支持するから署名するなんて、筋が通らない。
署名というのは、どんな言い訳をしようと、内容を了承する行為です。

なんて醜い言い訳をするんだろう。

コメンタリーのタイトルでも、冒頭の部分でも、わざわざ
「間違っていたのは決定と、その過程であって、意図じゃない。意図はよかったんだ」と断って
自分の批判の対象から、“Ashley療法”の意図(つまり親の意図)を切り離しています。

そのタイトルは全く内容と合っていないし……。

やっぱり、Aschは、私が睨んだ通り「知っている」のだと思う。

知っていながら、知ってしまったからこそ、追随せざるを得ない状況に
あのWGのメンバーの何人かは置かれたのだろうと推測していました。

あれは、メンバーの大半をワシントン大学の職員で組織した、
最初から「結論ありき」のWGだったのだから。
(04年5月の「特別倫理委」と同じように)

障害当事者で、しかも障害学の権威とまで言われて、
世の中の障害者に対する差別とずっと闘ってきた人なのだから、
WGの中でも、この人が闘わなかったはずはない……とは思う。

それでも署名せざるを得なかっただけの事情があった。
それは、よほどのことだったのでしょう。

07年の論争当時にCNNがAshleyの父親が誰かを知りながら沈黙したのが
よほどの事情であるように。

でも、いまさら、
わざわざ誰かに向けて「あなたの気持まで批判するつもりはないんですよ」と
お断りをしつつ、こんな、ぬるいコメンタリーを書いて
脚注で、こんなに醜い言い訳をして見せるくらいなら、

(それとも、自分はハメられたのだと、暗に訴えているのかしら?)

あなたには他に、勇気を持って語るべきことがあるのではないのか……と思う。
2010.02.17 / Top↑
AJOBの1月号に掲載されたDikema&FostのAshley論文と、
それに対するコメンタリーの一部を手に入れてくださった方があり、

今、個人的に一番注目しているLantos医師のコメンタリーを、まず読んでみました。

It’s Not the Growth Attenuation, It’s the Sterilization!
John Lantos, Children’s Mercy Hospital
AJOB, January 2010

要旨は、というと、

「子宮摘出に、非公開で透明性も公正性もない倫理委の検討で済ますなど、もってのほか。
そもそもAshleyケースに関する手続きもデタラメなら
Diekema医師らの論文も大デタラメ以外の何でもないっ」
ということを、もう少し上品に論理的に突っ込んでいるもの。

批判の論点は、ほぼ当ブログが指摘してきた通りで、

①2003年にDiekema自身が知的障害児への不妊手術について書いた慎重な条件が
Ashley事件ではことごとく無視されている。
Diekema医師の2003年論文は彼自身が裁判所の命令の必要を知っていた証拠。
そのDiekemaが委員長を務めた倫理委で何故こんなことができるのか。

この点に関する詳細は以下のエントリーに。


②現在の論文でDiekemaもFostも
道徳的に問題はないのだから裁判所の検討など無用だと主張するが、
問題はないと確信しているのならばこそ、堂々と裁判所で審理に臨めばどうか。
そうすればまっとうな前例となったものを、
間違ったプロセスで、間違った前例ができてしまった。

(これをこそ、私は2007年の論争当時から、ずっと一貫して言ってきたのです。
 Ashley事件は「前例」にしてはならない、あまりにも「例外」的な事件だ、と)

③これまでDiekemaらが書いた論文での隠ぺいとマヤカシの多さも
例えば the bizarre opaqueness of a supposedly scientific paper と表現。
(科学論文であるはずのもので、なんとも奇怪な曖昧さ)

ここで指摘されているマヤカシは
2007年の論争当初から当ブログがずっと指摘し続けてきたことですが、
Lantos医師の指摘の中には、これまで当ブログが見落としていたものも含まれており、

・2006年論文以降、身長を抑制する目的を謳いながら
肝心のAshleyの身長についてパーセンタイルを挙げてはいるだけで
実際の身長、骨年齢のデータが挙げられていない、
最終身長がいくらになると見込んでいたのかの予測データも出てこない。

(この点はSobsey氏も指摘していたような気がします)

・2010のDiekema&Fost論文でも
「中立の内分泌医が最終身長の抑制効果を認めている」と書き、
誰がどのようなアセスメントをしたのか、具体的なデータはない。

・乳房切除が男児に行われていた事例を挙げるが、
一方、女児についてのデータはない。
大きな乳房が不快だからと思春期の女児から切除された症例は1例もない。


ただし、Lantos医師のコメンタリーには事実誤認が2つあります。

Diekema医師はAshleyケースを検討した倫理委の委員長ではありませんでした。

これは当ブログの2007年6月のエントリーで確認済み。

もっとも彼はAshleyケースの担当倫理学者だったし
問題の倫理委にも出席しているのだから
Lantos医師の批判そのものは有効だし、

そもそも論争当時
メディアに「委員長だった」と思わせるようなミスリードを行ったのはDiekema自身。

倫理委については、
「Diekema医師が委員長だった」
「倫理委ではなく施設内審査委員会だった」
「倫理委のメンバーは40人もいた」
「倫理委には外部の人間も含まれていた」
など、事実と違う情報が多々流されました。

少なくとも論争当時、自分がインタビューを受けた記事や番組では
誤情報を訂正する機会はいくらもあったはずですが、
Diekema医師はそれを一切やらず、
誤解が独り歩きするに任せました。

その方が、
「まっとうで信頼に足りる、大きな委員会が承認したのだから正しい」
「Diekema医師は当該ケースの担当者というよりも中立な委員長として
正しいと判断してしゃべっている」と
世論が誘導されてくれると望んだからでしょう。

(実際に2007年の論争当時には、彼が望んだ通りに世論が誘導されました)

シアトルこども病院はWPASとの合意を守っていると誤解している。

こちらの事実誤認はQuellette論文Koll論文にも共通していますが、
極めて重大です。

Lantos医師のコメンタリーの末尾は
「病院は、自分の病院の倫理学者の議論にもかかわらず、
正しいアプローチを行っている」。

――いいえ。行っていません。

シアトルこども病院がWPASとの合意を実行しているかどうか
その後、いっさい確認されていません。

病院が作ったのは不妊手術へのセーフガードのみ。
成長抑制のセーフガードは恐らく最終的に成立していないと私は考えています。

……それとも、これは、Lantos医師からシアトルこども病院への謎かけなのかな。
落とし所を作ってやったから、そろそろ介入しろ……みたいな?



詳細は、以下のエントリーに。



2010.02.17 / Top↑
カナダ、ケベック州の州議会委員会が自殺幇助合法化の審議に入った。州として独自に合法化することはできないが、現在カナダの議会に法案が出ているとあって、影響は必至。ちなみに、これ、去年のケベックの医師会提言を受けての動きではないか、と。
http://www.lifenews.com/bio3052.html

例によって男児割礼の是非議論でのDiekema発言「医学的な利益もリスクも曖昧である」。:それと同じことを成長抑制について言ったらどうよ、倫理学者としての倫理観念が少しでも残っているなら……と、強く思う。
http://healthfinder.gov/news/newsstory.aspx?docID=634842

巨大ファーマがジェネリックの分野に利益の匂いを嗅いで進出を狙っている。ただしジェネリックとなると最低価格になる米国内ではなく、自腹で薬を買わないといけないんだけど高い薬には手が出ない人が多い東欧、アジア、南米で。
http://www.nytimes.com/2010/02/16/business/16generic.html?th&emc=t

去年1月にスタートした米国史上最大規模の National Children’s Study。67億ドルを投じ、105カ国の10万人の妊婦が登録。妊婦と生まれた子どもから多様なサンプルを採取し、子どもが21歳になるまで追跡調査する。子どもの健康に環境や遺伝子その他の因子が及ぼす影響を調べるのが目的。たとえば、殺虫剤に触れるとぜんそくの原因になるのか、特定の食事や遺伝子変異によって自閉症が起きるのか、など。
http://www.nytimes.com/2010/02/16/health/16child.html?th&emc=th

自閉症の症状を改善するホルモン剤 Oxytocin入り鼻スプレーが有望なんだとか。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/02/15/AR2010021501984.html

インドで遺伝子組み換え作物を巡って論争が起きている。遺伝子組み換え作物なんて、米国では1年前にトマトで始まって、とっくに当たり前のものになったのに……と記事冒頭。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/02/16/AR2010021600004.html

懲戒免職などで職場を追われた介護職が州を越えてまた職に就くことがないよう、作られているはずのデータベースから、介護者らの懲罰情報が消えている、とLA TimesとPropublicaの共同取材で。:まさか、介護職不足で意図的に?
http://www.propublica.org/feature/federal-health-professional-disciplinary-database-remarkably-incomplete

豪ブリスベーン。13歳が校庭で12歳のクラスメイトを刺殺。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/boy-13-charged-with-murder/1751885.aspx?src=enews

豪の首都特別区で、成績レベルの高い私立の学校に、生徒たちのパフォーマンス向上を狙って助成金を上積みするんだそうな。既に他の学校の生徒たちよりも高いレベルなのに。:国際競争力を維持するためには、格差をなくす方向での富の再分配ではなく、格差を広げる方向の富の再分配が必要になるのは、どこの国も同じ……ということの救いのなさ。それを各国がやったって、国家間でも同じことが起こるに決まっているのに。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/our-elite-schools-get-extra-funding/1751895.aspx?src=enews
2010.02.16 / Top↑
はたして、前のエントリーで書いた話と、どこまで関係しているのか、していないのか
その距離間がしかとは分からないから、ぐるぐるしてみるだけなのだけど、
その不思議な財団法人のサイトを覗いているうちに頭に浮かんできたことを。

巨大製薬会社の、特にSSRI・抗うつ剤を巡るスキャンダルや訴訟については
当ブログでも以下のエントリーなどで、たびたび取り上げてきましたが、


米国ではビッグ・ファーマのデータ操作や抗うつ剤の副作用や著名研究者との癒着が
もうずいぶん前から非常に大きな社会問題となっているというのに、
日本ではそうした事実が全く報道されず、
長いこと、精神障害当事者の方々が
ネットで問題提起をしておられるだけでした。

ところが、最近、やっと日本のテレビや新聞も
特にSSRIを中心に抗うつ剤には攻撃性を起こす副作用があることを指摘し報道するようになりました。

もちろん、そこには厚労省の動きもあったし、
日本の多くの当事者の方々が長年、薬に傾斜しすぎる精神科医療のあり方に疑問の声を挙げ、
闘いを続けてこられた成果があることは間違いありません。

しかし、それだけでもないのでは……と私は考えています。

ずっと英語ニュースを追いかけていると、
ここ数年で、明らかに米国内の風向きが変わったように思われるのです。

ターニングポイントになったのは、やはり2年前からのGrassley上院議員らによる
製薬会社と研究者らの癒着についての徹底した調査ではなかったでしょうか。
議会の調査が入ったことによって、それまで噂でしかなかった癒着の実態が
次々に明らかになりました。

最もショッキングだったのは、
当ブログでも何度も取り上げたBiedermanスキャンダルでしょう。
(未だに日本では報じられていませんが)

もちろん、それらの実態が解明されるにつれて、
精神科医療の在り方に疑問を呈する専門家の声も数多く上がるようになりました。
副作用のリスクも改めて指摘されました。

同時に、去年は特に施設入所の高齢者や認知症患者への
精神科薬の過剰投与の問題も大きくクローズアップされ始めました。

そして、米国では、ついに
保険会社が抗精神病薬の処方への給付に慎重になったとか。

こうなっては、製薬会社の方でも、
そろそろ精神科薬では、もう十分に利益を上げ尽くしたと見切りをつけるほかない。

日本のメディアがやっと抗うつ剤の副作用を取り上げるようになった時期は、
精神科薬でのボロ儲けの限界を巨大ファーマが受け入れた時期に
ちょうど重なっているのではないでしょうか。

米国では(ということは世界中で)製薬会社のマーケティングのターゲットは
精神科薬から、他の領域へと流れが変わりました。
次のターゲットは、どう考えてもワクチン。

なにしろ、世を挙げて「予防医療で医療費削減を」がトレンドです。

去年11月の
リスクの“リ”の字もなく“黄金時代”に沸くワクチン開発記事によると、
結核、アルツハイマー病、尿路感染、性器ヘルペス、植物起因のアレルギーから
旅先での下痢まで、予防するワクチンが5年以内に売り出されるとされています。

しかも、ワクチン開発にはゲイツ財団のお金がついてきます。
そして、このお金に「ビジネスモデル」がくっついてくるのです。

ゲイツ財団、UNICEF、WHO、世界銀行などが作っている
Global Alliance for Vaccines and Immunization(GAVI)が
途上国のワクチン開発・製造に競争原理のビジネスモデルを持ち込んだ自らの努力により
ワクチンの価格が下がって、途上国で接種を受けられる子どもが増えたと自画自賛し、
これからも同じくビジネスモデルでマーケット形成に力を入れていく、と宣言。

奇しくも、それもまた去年11月の出来事でした。
ゲイツ財団とWHOがいう「ビジネスモデル」は当然のことながらDALYにつながっています。

Global Burden of DiseaseというDALYプロジェクトで
ゲイツ財団と提携しているLancet誌には、その前後から
ワクチン関連の論文がわんさと載るようになった気がするのですが……
私の気のせいでしょうか……。

そして、最近とみに、あぁぁぁぁぁ、イヤ~な感じだなぁ……と思うのは、
今年に入ってから日本の新聞やテレビが
やたらとワクチンを取り上げるようになった感じがすること。

日本はワクチン後進国だ、もっと欧米並みに子どもにワクチンを打たないと……との論調で。


――こう、眺めてくると、

DALY・Global Burden of Disease プロジェクト・WHO・ゲイツ財団・予防医療・ワクチン……

DALYと同類であるQALYのセミナーが製薬会社の主催で開かれることも、
最初に考えた以上に、なにやら、みょ~に、得心できる話なのかも……?





巨大ファーマがかつてのゼネコンなのだとしたら……(2009/9/29)
(その他「科学とテクノのネオリベラリズム」の書庫に多数)
2010.02.16 / Top↑
QALYが「患者立脚型アウトカム」と称して製薬会社のセミナーに(日本)のエントリーで取り上げた
エーザイとファイザーの主催によるセミナーの記事を読んだ時に
私が主に考えたのは、

製薬会社が認知症患者への投薬実験の結果をQALYの「効用値」を持ち出して解説し、
認知症そのものには効かなくても患者と介護者のQOLは向上できるんだという理屈で
薬を売り込もうという魂胆が透けて見えるなぁ、

QALYはこれから、そんなふうに
病気そのものへの治療効果がない薬をQOL向上効果によって売り込んでいく製薬会社
マーケティング用の煙幕として濫用されるのかなぁ……ということでした。

それ以上にはDALY・QALYと製薬会社の利権とを
特に結びつけて考えていたわけではありませんでした。

もっとも、DALYについては
ゲイツ財団が熱心に広めようとして提唱者のMurray博士をIHMEに招聘したわけだし、
そのIHMEの理事にはWHOの前事務局長も入っている
そのWHOはゲイツ財団と何につけパートナーとして繋がりが深く、
従って……なのかどうか、WHOもDALYを採用しているのだから、
ゲイツ財団がワクチン・予防医療志向である限りにおいては、
製薬会社の利権も敏感ではあるだろう……という程度の
漠然とした感じくらいは抱いていましたが。

ところが、上記エントリーを書いた後で、
去年9月のDALY・QALY関連エントリーにTBしてくださった
この分野の研究者さんと思われるdojinさんのブログにおじゃまして、
いろいろ教えていただいているうちに、

dojinさんが「QALYについての概論」としてリンクしておられる東大の先生の講演資料
読んでみようとして、あまりに専門的なのにメゲつつ、
自分は読めないくせに人に教えてあげたりしているうちに
逆に教えてもらったのが以下の財団法人。


dojinさんがリンクしておられる東大大学院の福田先生の
QALYに関する講演が行われたセミナーを主催した団体です。

どういう団体か、趣旨をHPのトップページから引っ張ってくると、
情報洪水時代とも呼ばれる今日,一般市民が接する医療情報は,加速度的に増えつつあります。こうした中,情報の担い手であるメディア側に,医療・健康に対する知識と理解が欠けているために生じる情報面でのトラブルが後を絶ちません。

日本が真の意味での医療先進国へと脱皮し,患者主体の医療を実現するためには,何よりもまず,国民が正しい情報に接することが必要であり,そのためのシステムの構築と支援体制を整えることが急務であると考えられます。
 
2004年に創立20周年を迎えた(財)パブリックヘルスリサーチセンターは,生活習慣病の予防と治療,ならびに疫学研究や・臨床試験研究などに対する国 民の意識向上をはかるため,広報モデル事業として,Japan Public Outreach Program(JPOP)を発足させました。この目的の下に参集したテレビ,ラジオ,インターネット,出版などのメディアが互いに連携をとり,医療専門 家グループの指導の元に,市民に向けて正しい医療情報の提供を進めていきたいと思います。

このJPOP活動が,国民と医療者間の情報落差を縮め,患者主体の医療を実現するための一助となれるよう,皆さま方の力強いご支援をお待ちしております。


ところが、摩訶不思議な感じがするのは、
沿革を見てみると、この団体の母体は、なんとストレス学会なのです。

事業概要を覗くと、「ストレス科学研究所」がその中心。
そういうサイトだから当然「ストレスチェック」と「こころの健康相談室」のページがある。

調査研究事業のページでは「ストレス科学研究3つの柱」として

・ストレス科学研究
・臨床支援研究
・QOL研究

なんか、こう、そこはか……どころではない薬臭さが漂ってくるような……?

ついでに役員名簿を覗いてみると、
WHOの名誉事務局長がちゃ~んと名前を連ねておられたりもして……。

な~んだか……なぁ……。

次のエントリーに続く)
2010.02.16 / Top↑
月曜日の夜放送された BBC East Midland’s Inside Out という番組で、
プレゼンタ―を務めているベテラン司会者の Ray Gosling氏が
何年も前にエイズの恋人を枕で窒息死させた“慈悲殺”を告白。

BBCが自殺幇助合法化問題で
偏向報道を続けているとの批判が過熱しそうだ。

「かつて私は、ある人を殺しました。
若い男性でした。
私の恋人だった人で、エイズでした。

ある熱い午後の病院で、医師にもはや手はないと告げられました。
彼はとても、とても苦しんでいました。

医師に『ちょっとだけ出てってください』というと立ち去ったので、
私は枕をとって彼が死ぬまで顔に押しつけました。

医師が戻ってきたので『亡くなりました』といいました。
それだけでした」

別の司会者から、なぜ何年も経った今、告白するのかと尋ねられて
愛する人が苦しんでいるのに、なかなか死ねないでいるという
自分と同じ状況にある人を沢山見てきたから、と。

また、後悔はないかと聞かれ
「まったくありません。私は正しいことをしたのです。
彼とはそういう約束をしていました。痛みがひどくなって
誰にもそれをどうすることもできない時が来たら、
私がそうしてあげる、と言っていたんです」

これまで真実を知っていたのは、
亡くなった男性の家族だけだったという。



いや、その病院の医師も
真実を知っていたんだと思うけど、
たまたま「慈悲殺」容認の立場の医師だったのでしょうね。

何年も前に、英国の病院には
患者の近親者による「慈悲殺」を黙認する医師がいた……。

Gosling氏の「告白」は
そこをこそ、見落としてはならないのでは?

だって、それが「大したことじゃない」と受け止められる社会って、
ものすごく怖い社会なのでは?



【17日追記】警察が捜査を開始する、と。


2010.02.16 / Top↑
カナダGazette誌で「自殺幇助合法化法案は医師に殺しのライセンスを与えるに等しい」と。
http://www.montrealgazette.com/news/Suicide+bill+would+give+doctors+licence+kill/2565610/story.html

去年2月にLuisiana州で起きた事件。癌の治療でしゃべることができなくなっていた73歳の黒人男性Monroeさんが自宅前で白人警察官に不審な人物として射殺された。目撃者は否定するが、警官はMonroeさんが銃を持っていたと主張。2月4日、陪審員は不起訴とした。黒人住民の間から憤りが噴出している。
http://www.nytimes.com/2010/02/15/us/15homer.html?th&emc=th

豪でも生活保護などの福祉給付の申請者が急増して、10人に1人が断わられている。特にシングルマザー、病者・障害者:やっぱり水際作戦とかやって?
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/welfare-agencies-reject-1-in-10/1750808.aspx?src=enews

貧困層の子どもでは富裕層の子どもに比べて5歳までに言語発達に遅れがみられる。1歳程度の差。調査をした団体は、政府に貧困地域での親教室などに資金を、と。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8515595.stm

祖父母が面倒を見ている子どもは肥満のリスクが高い。:これは分かる気がする。ここのところ、親と祖父母の意見の対立が避けられないところ。面倒を見てもらっていたら親も強くは言いにくいし。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8513112.stm

女性のマジョリティがレイプ被害者の中には女性側に責任がある人もいると思っている、とのロンドンでの調査結果。男性よりも女性の方が被害者に厳しい。:他にも調査項目があるようだけど、タイトルしか見ていません。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/8515592.stm

去年、何度も拾った、アイルランドのカトリックの児童養護施設で70年代に聖職者による児童虐待が行われており、実態を把握していながら教会も警察も事実を隠ぺいした問題で、ローマ法王がアイルランドのカトリック協会幹部と協議。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8515595.stm

Dick Francisが89歳で死去。:ずっと前、PBで結構あれこれ読んだ。しかし、この記事を書いた人物はひどい。作品を読まずにFrancisの新刊レビューを書いたことがある、「絶対に売れる」と書いて、その通りになった、というのだけど、そういうことを堂々と書くって、物書きの神経って?
http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/books/article7027046.ece?&EMC-Bltn=EFIDU2F
2010.02.15 / Top↑
自殺幇助関連

街角ごとに高齢者向け“安楽死ブース”を、というMartin Amisの提言に対する、Wesley Smithの批判。
http://thehumanfuture.blogspot.com/2010/02/legalizing-euthanasia-would-interfere.html

2月10日にも同様の記事があったけど、カンタベリーの大司教が自殺幇助の合法化は「道徳の境界線を越えることになる」、「“死ぬ権利”は道徳的な誤りであるばかりか、自由のバランスを覆すもの」と批判。
http://www.christianmessenger.in/news/row_130210/901.php

Vincent Nichols大司教が患者を“医療問題の寄せ集め”“症例”とだけみなし、死を“医療上の出来事”視するNHSの姿勢を批判。患者の苦痛だけでなく、苦しみや不安にもヒューマニズムを持って対応すべきなのに、死をどう扱っていいか分からなくなった社会の文化がNHSの姿勢にも自殺幇助を巡る議論にも表れている、と。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/8513802.stm
http://www.guardian.co.uk/society/2010/feb/14/catholic-leader-attacks-nhs
http://www.google.com/url?sa=X&q=http://www.telegraph.co.uk/news/newstopics/religion/7222175/Archbishop-Vincent-Nichols-We-no-longer-know-how-to-deal-with-death.html&ct=ga&cd=feadVITqHRs&usg=AFQjCNGXx31iKBU9wFaScUY3dbAiiORhTA

設問に問題があるけど、「安楽死の合法化に賛成ですか?」という、ごく大雑把な米国の世論調査で、賛成が42%、反対が37%、どちらとも言えないが22%。去年の同じ会社の世論調査よりも賛成の人が減少している。「合法化されたら弱者が十分保護されない」と思う人は52%。思わない人が32%。どちらとも言えないと答えた人が15%。
http://www.lifenews.com/bio3051.html


その他


金曜日にAlabama大学の生物学部会で銃を乱射したAmy Bishop教授はハーバード大学卒の神経生物学者。その他、詳細記事。テニュアが認められず、今学年限りとなっていた。また、かつて弟を撃ち殺した経歴も。ただし動機はまだ明らかになっていない。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/02/13/AR2010021303506.html

英国のBrown首相が、9年前に生後間もなくの第一子を亡くした際の悲痛と、その後生まれた2人の子どもの1人Frase君がCFであると診断された時の衝撃について語った。そして、新しい治療法の開発にも期待しているし、本人も日々の生活に気をつけながら木登りをするなど活発に暮らしている、と。:これまで、保守党のCameron党首が重症脳性まひの息子のケアをする姿をメディアに公開したり()、積極的に障害児の父親として発言するのに対して、Brown氏は息子のCFについて語らないことがよく指摘されていた。ちなみにBrown氏は自殺幇助合法化に反対の立場。
http://www.guardian.co.uk/politics/2010/feb/12/gordon-brown-interview-baby-jennifer

経管栄養は大きな営利の病院ほど使われている。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/178851.php

終末期ケアの集中度の高い病院に入った患者の方が、集中度の低い終末期ケアの病菌に入った患者よりも長生きする。:でも、その「長生き」をしてもらっちゃ困るわけだから……と思っている人たちがいるわけだから……。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/179017.php

軽度の認知症の人が在宅生活を継続するための支援テクノロジー
http://www.medicalnewstoday.com/articles/178676.php

synthetic biologyという新しい学問分野で、ちょいと生物工学の初歩を勉強しただけで、ちょちょいっと新たな生物体を創り出すことができるようになって、素人科学者の間で、ちょっとしたお遊び・流行になっているんだそうな。
http://www.nytimes.com/2010/02/14/magazine/14Biology-t.html?th&emc=th
2010.02.14 / Top↑
4月22日から24日にオハイオ州クリーブランドで
以下の小児科倫理に関する会議が開かれます。

Pediatric Ethics 2010:
Advancing the Interests of Children

Diekema医師が大活躍の予定で、

①まず、22日の開会式に続く全体講演を8:15から1時間。

タイトルは
Clinical Ethics and the Tools of Bioethics
臨床倫理と生命倫理のツール

②その後、分科会ではAshley事件に関して講演。

タイトルは
Ethics Consults and Institutional Interests: The Ashley Case
倫理相談と組織(病院)の利益:Ashleyケース

これまでとは、ちょっとタイトルの趣が違ってきました。

A事件でのシアトルこども病院の利益の衝突疑惑について、
いよいよ語るのか……まさか?

③さらに23日の午後の分科会でもKarren Ballard医師と一緒に
Withholding and Withdrawing Life-Sustaining Interventions: Are Medically Provided Fluids and Nutrition Different?
生命維持介入の差し控えと中止:医療的水分と栄養の供給は別の話か?


カンファのプログラムはこちら


Diekema医師が去年、米国小児科学会生命倫理委員会の委員長として
水分と栄養の差し控えについて倫理的とする見解を提示した論文についてはこちらに。
(論文も読んだのですが、まだエントリーにかけていません。内容、酷いです。)


ちなみに、A事件で当初、擁護に奔走していたFriedman Ross医師は
全体講演で、「固体臓器移植における方針の問題」を。
2010.02.14 / Top↑
去年9月に公園で自殺したのは Ben Dowdellくん(16)。
母親によると知的障害があった。

学校で毎日のように暴力をふるわれるなどイジメにあっていたが
それでも笑顔で(? まぁ、お母さんの証言では)学校には通っていたという。

彼の幇助の罪に問われ有罪判決が出たのは Dillon Gargett くん(17)。

2人とも「抑うつ的な病気」にかかっており、
Dillonに自殺を試みた経験があったことから
死にたいと考えたBenが相談を持ちかけた、とされる。

Dillonと仲間が集まって「Benとのお別れ会」を催した後に
BenはDillonの手を借りて自殺しようとしたのだが失敗。

そこで翌日、その時のグループがもう一度公園に集まった。
Benは他の子どもたち全員に公園から出るように言い
Dillonは立ち去る際に振り返って事態を把握しながら
Benを助けようとはしなかった。

その夜、Benを探していた父親から電話があった際にも
DillonはBenの所在を言わなかった。
そのためBenの遺体は翌朝まで発見されなかった。

もっとも、弁護士によるとDillon自身が非常に複雑な環境に置かれており、
自分の抱える問題で手いっぱいの状況だった、とのこと。

その後、どんなに人生に希望が持てなくとも
人生は生きるに値するものだと考えを変え、
Benの両親にも謝罪した。

もともとは青少年法廷で名前も公開せず裁かれることになっていたが、
何度もBenを思いとどまらせたり命を助けられる機会があったにもかかわらず、
それを怠ったDillonの行動は悪質で、Benの母親も実名公開を望んだとして
高等裁判所に移されて、実名が公開された。

またこれまでの4か月の拘留中も
問題行動が続いたために保釈も認められず、
本人の安全のためにハイリスク・ユニットに入れられていたとのこと。

その4カ月をカウントして、
あと8カ月の家庭拘禁が言い渡された。

その間には精神科のカウンセリングも義務付けられた。



当事者がともに未成年とあって、
肝心な事件の詳細が出てきていないし、
加害者の方にも相当な事情があった様子はうかがえるので
これだけの情報からこの事件については何とも言えませんが、

この事件に限らず、
最近あちこちの国で「自殺幇助」として処理される事件が目に付くのだけど、
どうやって「殺人」と「自殺幇助」の区別が可能なんだろう……というのをいつも思う。

そして、また、こんなにメディアで「自殺幇助」が議論されて、
日々メディアに流れている
「障害のある生は生きるに値しない」
「認知症の人には死ぬ義務がある」
「家族に迷惑をかけないために死ぬのは美しい」
「障害のある娘を悲惨から解放するために殺した美しい母性愛」などの言葉は、
子どもたちにも届いているのだ……ということを思う。


2010.02.12 / Top↑