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少年は現在17歳。

どうもイスラエル人らしいのですが、
運動と言語機能に影響するAtaxia Telangiectasiaという遺伝病の治療として
2001年にモスクワの病院で胎性ES細胞を脳と脊髄に3回注射。

最初の注射から4年後に
テルアビブの病院の医師が脳と脊髄にそれぞれ1つずつ腫瘍を見つけた。

いずれも、ちょうどES細胞を注射した場所に出来ていた。

胚や胎児の細胞を利用することの倫理問題とはまた別に
ES細胞治療の安全性に対する懸念も高まること必至。

ちなみに、この治療で少年の遺伝病が改善したかどうかについては「さだかではない」。

Stem cell ‘cure’ boy gets tumour
The BBC, February 18, 2009


2001年の段階で既にそんな治療が実施されていた……ということ自体、衝撃。

それは治療というよりも人体実験だったのでは……?
しかも子どもに……?
2009.02.18 / Top↑
ずい分と遅ればせな感じもしますが、

英国でのLuise Brownさんの誕生から30年以上、
生殖補助技術は安全だとされてきたけれど、
実は遺伝子の発現や発達パターンになんらかの異常を起こすリスクがあるのでは、と
そうした調査研究の必要を感じる研究者が増えてきている。

これは多胎児の確率が高くなるのとは、また別の話。

Picture Emerging on Genetic Risks of IVF
The NY Times, February 17, 2009

去年の11月にCDCが発表した論文では
IVFまたは精子を直接卵子に注入する技術によって生まれた子どもでは
わずかながら先天性異常リスクが高くなることが判明。

心臓の壁に穴があいているとか、口蓋裂、食道または直腸の発達不全なども。

科学者の間ではリスクがあることは共通認識になっている一方で、
そうしたリスクについて考える臨床現場の医師が少ない、
患者の側からリスクについての質問が出ることも少ないなど、
リスク議論が科学者の世界から広がっていかないことを指摘する声も。

Johns Hopkins の Andrew Feinberg 医師らが8年前、
IVFについての情報不足を懸念し癌を引き起こす遺伝子発現の変異を調べたところ、
ベックウィズ・ビーデマン症候群、アンジェルマン症候群などの遺伝疾患が生じる確率が
IVFで生まれた子どもではそれ以外の子どもよりも高かった。

遺伝子発現レベルでの変異は
このような珍しい遺伝病の他にも低体重や各種ガンの発生率とも
関連している可能性があると思われ、

胚の培養液の組成が影響しているとの見方もあるが、
クリニックでは様々な培養液が使用されており、
また使用する液を頻繁に替えているところが多いことから調査は困難。

こうしたリスクについて
「私の懸念は、情報も遺伝子発現の安定性を測るツールも不足していることだ」と
語る研究者も。

実験室で作られるマウスの胚では
遺伝子の発現に変異が起こること、
それによって行動にも変化が起こることが確認されており、
研究者は胚の操作と培養によるものだと考えている。

同じことが胚性幹細胞でも起こっている可能性が指摘されてもいるらしい。

しかし、仮に人間に同じことが言えるとしても
IVFでの遺伝子発現レベルでの変異の影響は
成人した後、時には中高年期まで形として現われてこないので把握しにくい。

その一方、
IVFで子どもを産んだ親にアンケートをとった場合には
異常を感じている親の方が回答を寄せやすい傾向もある。

英国の研究者は記事の最後で

「この分野はリスクに関する情報を必死に求めています。
私はこれまでの研究に基づいて世界中でこの問題について講演してきましたが、
IVFや関連技術で生まれた子どもたちの健康について
だんだんと悲観的な見方をするようになってきています」

       ――――――――

私は関連ニュースを見るたびに、
なぜ、こういう研究がないのか、ずっと疑問だったし、

これもまた、
「ない」研究は「ないこと」が見えないだけであり、
それがなぜ「ない」かというと
たぶん「ない」方が都合がいい研究は
誰もやりたがらないだけ……という科学の陥穽では?

ついでに考えたこととして、
ここで言われていることはクローン肉の安全性の問題にも
実は当てはまるのではないか……と。



科学情報を前にした時には
どんなに科学とテクノロジーが進んでも
「ある」研究よりも「ない」研究の方が圧倒的に多いし、
「わかる」ことよりも「わからない」ことの方が圧倒的に多いのだということを忘れずに、

そうした大きな理解の上に立って、冷静に
特定の断片情報と向かい合うことが必要なんじゃないだろうか、といつも思う。

「あると証明されていないリスク」は
決して「リスクがないことの証明」ではないのだから。
2009.02.18 / Top↑
膨大な資料なので、すぐには完了しないと思いますが、
関連リンクのエントリー・シリーズを作り、時間のある時に少しずつ
手元の紙ファイル資料をリンクで整理していこうと思います。

追加やメモの訂正など、
このシリーズのエントリーには随時変更があることをご了承ください。

メディアはURLから分かると思うので、とりあえず特記事項のみのメモで。


2006年



http://www.msnbc.msn.com/id/15517226/
(Reutersの上記論文についての報道)



2007年1月


3日
http://articles.latimes.com/2007/jan/03/nation/na-stunt3
(ニュースブレイク:父親発言)*

http://www.thestar.com/printArticle/169916
(D医師インタビュー、Sobsey 氏コメント)

4日
http://seattletimes.nwsource.com/html/health/2003508681_ashley040.html
(前日のLATimes再掲:ナゾの削除あり)




http://transcripts.cnn.com/TRANSCRIPTS/0701/12/lkl.01.html
(Larry King Live:D医師・Fost医師出演)




http://seattlepi.nwsource.com/local/298543_stuntedside05.html
(G,D,Wilfond医師発言、倫理委のメンバーについてG医師がウソ)

http://seattlepi.nwsource.com/local/298552_stunted05.html
(G,D,W医師発言、「リタリン、口蓋裂手術と同じ」、Ross医師コメント)

http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=the-pillow-angel-case--th
(W医師、Norman Fost, Joel Fraderの3人が利害関係のない専門家を装ってメールで討論、擁護)






16日
http://seattletimes.nwsource.com/html/editorialsopinion/2003526343_ashleyed16.html
(ヒステリックな擁護の社説:証明できませんが当事者が書いたもののような気がする)


2007年2月
http://www.salon.com/news/feature/2007/02/09/pillow_angel/
( 病院内部情報)



2007年3月
http://www.ama-assn.org/amednews/2007/03/12/prse0312.htm#sb1
(米国医師会会員新聞:IRBが検討したとの誤解?のもとに行われたD医師インタビュー)



【注】
メモのカッコの後に * がついているものが
「父親はソフトウエア会社の重役」という情報を含んでいる記事。
2009.02.18 / Top↑