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なんだかんだ言いつつも急速にアメリカ化していく日本の
政治家にじっくり見てほしい米国の調査結果――。


Brandeis大学の資産・社会政策研究所が行った研究プロジェクト
The Senior Economic Security Index(SESI)によると、

米国の高齢者世帯の78%は死ぬまでに必要な基本的生活資金が十分とはいえない、と。

特に単身世帯、アフリカ系アメリカ人世帯、ラテン系アメリカ人世帯の状況が深刻。

特に負担となっているのは

住居のコスト
収入の3分の1を家賃にもっていかれる、
またはいざという時に売れる家がない世帯が45%。

医療費
収入の15%以上が医療費に消えるという世帯が40%。

全体の予算
基本的な生活費で収入が全部消えてしまうのは3世帯に1。

資産
ここ専門用語があってよく分からないのですが、
なにしろ十分な資産がない世帯が54%。

でも記事が強調しているのは
これでも今の高齢者はまだ恵まれている方で
これから歳を取っていく世代はもっと悲惨なことになるんだから、
選挙行動にせよ、そこを良く考えなさいよ、と。

で、問題への対応として挙げられている要点は
・ 社会保障の強化
・資産形成の機会拡大
・もっと長くもっと生産的に働けるような労働形態の柔軟化
・医療危機への対応
・介護保険を作る



介護保険制度を作れといっているあたりが目を引きます。

民間の保険会社によるものはすでにあるのだから、
(知人の70代退役軍人夫婦は民間介護保険に
夫婦で月3万円かけているといっていました)

ここで言っているのは公的な介護保険制度のことでしょうか。
特にそう明言されてはいませんが。
2009.02.06 / Top↑
去年12月に、
安心して老いられる社会をめざすネットワーク
「介護保険を維持・発展させる1000万人の輪」というのが創設されたそうだ。

共同代表は
樋口恵子(高齢社会をよくする女性の会代表)
白澤政和(大阪市立大学大学院教授)
高見国生(認知症の人と家族の会代表理事)

その設立総会のことは
以下の白澤教授のブログに書かれている。

「介護保険を持続・発展させる1000万人の輪」設立総会について
ソーシャルワークのTOMORROW LAND・・・白澤政和のブログ(2008/12/22)


実は手元の「介護保険情報」2月号にも総会を取材した記事があって、
前のエントリーで紹介した英国の社会福祉状況報告書の周辺を当たっていたタイミングで
たまたま目にしたから、余計におかしかったのかもしれないのだけれど、

その設立総会の鼎談「介護保険をどう変えるか」での樋口恵子さんの発言がおもしろい。
(いつもおもしろい人みたいなのだけど)

まず、大きくうなずきつつ読み、
次にニヤリとしたと思う間もなく
今度はブッと噴出してしまって、
その後で、煙に巻かれてワケがわからなくなる……というか……。

その部分を記事から抜き出しみると、

また、2007年あたりから介護を理由に離職する人が増えており、
その数は14万人に達しているという。
私たちは要介護者の生活を支えるだけでなく、
介護者の人生にも目を向けるべきではないか。
(よくぞ、よくぞ、言ってくださいましたっ!!)
介護によって人生の夢を失うことなく、
介護保険があることによって夢を再構築できるような制度に
していかなければならない。

介護保険を含めた社会保障における“関が原の合戦”は始まったばかり。
近々行われる選挙は大きな合戦場になる。
それまでに私たちは利害関係を超えて団結する必要があるが、
無理して全面的に手をつながなくてもいい。
“いったん接着主義”で端と端が手をつなげば大きな輪になる。
“介護1000万人の輪”とは、そうした意味でもある。
大切なのは市民が自立して国に先手を打つことではないだろうか。

最後のところで煙に巻かれてワケがわからなくなったので
あはは……と笑って読み過ごそうとページを綴じたところで、

ふっと

今日の午前中にYahoo!で見かけた
こちらのニュースが頭によみがえり、笑顔が凍り付いてしまった。

2009.02.05 / Top↑
英国では、この春、今後の社会福祉の方針をまとめた緑書が発表されることになっており、
その前段階として1月27日にCSCI(社会福祉監査委員会)が議会に提出した
2007-2008年の社会福祉状況報告書がCSCIのサイトにアップされています。

The state of social care in England 2007-2008

報告書のダウンロードはこちらから。

CSCIのプレスリリースはこちら


全般的な改善は認めつつも、
ケアが画一的で個別のニーズに応じたものになっていないと問題点を指摘。

CSCIの委員長 Dame Denise Platt氏は
「社会福祉を必要とする人は何よりもまず1人の人である。
従って、それぞれ自分が選んだ人生を生きられるための
テーラーメイドの支援が行われなければならない。
複雑なニーズのある人にもきちん支援が行われてこそ、
初めてすべての人に支援を届けることができるのだ」

          ――――――

ところが、この報告書に
高齢者アドボケイト団体である Help The Aged とAge Concernからは
だいたい次のような怒りの声。

(私の耳に聞こえたまま、ちょっと意訳しております)

な~にが「ピープル・ファースト」だ。
全体に改善されたなどというが高齢者は社会福祉制度で差別を受け、
質の低いケアに苦しんでいるんだぞ。

重度者のニーズばかりに対応して、
中等度・軽度者への支援は後回しになったままじゃないか。

だいたい制度が機能していないし政府が介護を重要視しないから
介護職の不足が深刻になるのだ。

ケアホームは人手不足に苦しんでいるし、
このままでは支援を受けられない高齢者は増えるばかり。

それに、ニーズが同じでも
ダイレクト・ペイメントで高齢者がもらえる金額は
若年層よりも低いことが多いみたいだし。

ダイレクト・ペイメントを受けている高齢者への
情報、アドバイス、支援も断固、足りてない。

こういう制度上の不備、根本的な不備に緑書はちゃんと答えを出すんだろうな。こら。


2009.02.05 / Top↑
先日紹介したBad Crippleさんが
Ashley事件について新たにエントリーを書いておられます。

私もあまり人のことを言えないけど
この人が書くものは、いつも長い。

そのため読んだこっちも言いたいことがありすぎて整理できないので
とりあえず資料が散逸しないためのメモとして。

Ashley X: Intrigue and Ethics Cllide
Bad Cripple, February 4, 2009

【追記】
ここ、さっき覗いてみたら、コメントで
ちょっと面白いツッコミが入っている。

あなたは担当医だけでなく倫理委までが親に影響されたとほのめかしているが、その根拠は?

私も読んだ時に
「親が金持ちだからといって」と不用意に書いてしまっているところで
あっちゃぁ……おいおい……と思った。

その「ほのめかし」についても、
Peaceさんは多分そういう説を唱えているブログを読んで、
なるほど、そういうことか……と考えたのだけれども、
やっぱり背景を考えるとコワイもんだから公に自分も完全に同意だとは言えず、
でも、みんなに本当のことを知ってもらいたい気持ちも抑えがたくて、
「ほのめかしている」のだと私は個人的に考えるのですが、

どう答えるのかな……。
2009.02.05 / Top↑
……と、まぁ、表題どおりの内容のニュースで
WPのタイトルがうまいこと言っていて
「8つ子の母、倫理論争まで産む」

6人の子どもの中には双子もいるというので
もしかしたら、以前にも生殖補助医療で生んでいる可能性もあるということでしょうか。

同居している母親は

「性格が悪いわけじゃないんですけど、
娘には子どもへの執着があって(obsessed)。
子どもが大好きで、扱いも上手いんですよ。
今度ばかりはやりすぎましたけど」

どうしても「もう1人女の子がほしかった」ので
子宮に戻す胚の数を増やしてもらったのだとか。

先日にぎにぎしく記者会見したカイザー・パーマネンテ病院では
産ませただけで妊娠の過程には関っていない、と逃げ腰。

母親自身はそのあたりのことを語っていないものの、

米国生殖補助医療学会からは
8つ子を妊娠させたのも産ませたのも
ガイドライン違反だとの批判がでている。

Octuplet Mother Also Gives Girth to Ethical Debate
The Washington Post, February 4, 2009


この女性に必要なのは、生殖補助医療ではなく精神科医によるケアだったのでは――?
2009.02.04 / Top↑
米国の障害者アドボケイト Arcのマサチューセッツ州支部が
知的・発達障害者をきちんと診てくれる医師がいないために
成人しても小児科にかからざるを得ない実態を調査し、
報告書にまとめている。

本来なら内科医にかかるべき疾患のある知的障害者が
内科医が障害者を診たがらないために
障害に関する知識と理解がある子どものころの主治医、
小児科医に引き続いて診てもらっている。

小児科医のほうも自分の患者を見捨てるわけにいかないため
患者が成人した後も診続けざるを得ない。

ざっと検索してみたところではヒットしないのですが、
報告書のタイトルは以下。

Left Out in the Cold: Health Care Experiences of Adults with Intellectual and Developmental Disabilities in Massachusetts

報告書は
医学教育の中に障害者への配慮が盛り込まれることや
障害者の診察には余分にかかる時間や手間に対して
医療保険が支払いを検討することを提言している。

Seeking grown-up care
MD’s unease found to leave many disabled adults with pediatricians
The Boston Globe, February 2, 2009

専門の小児科医(それから重心施設の看護師)でなければ
重症児医療のことは本当に何も分かっていない──。

これは私も、娘の腸ねん転手術時の総合病院での外科入院で痛感した点です。

外科医にも外科病棟の看護スタッフにも
重症児に対する医療知識も経験もなにもなかったために
抗けいれん薬の飲ませ方がデタラメだったり
手術後に、けいれんが続いて重積が危ぶまれる状態になっているというのに
何も対応してもらえなかったり、

その他、いちいちにおいて
本来なら慎重にすべき判断が粗雑に、
本来なら大胆にすべき判断が臆病に
……とすべての対応が逆に回って

娘はそのために、
本来なら受けなくても良いはずの苦痛や不快を与えられ
無用な命の危険に晒されたし、残存機能も大きく損なわれました。

その際、娘の医療について一番よく分かっている施設のドクターとナースは
病院との関係が悪化しかねないほどのギリギリまで
母親の私と一緒になって訴えてくれたのですが、

施設と病院との力関係と縄張り・垣根、
総合病院の中でも外科と小児科との力関係と縄張り・垣根は
事実上、患者の利益を平気で置き去りにしてしまいました。

その体験から振り返ると
確かにArcの主張するように
障害への理解と配慮を広く医学教育に盛り込んでもらうことは必要だけれど、

それぞれの患者の障害特性に応じた医療的判断というものは
様々に専門分化される一方の医師の個人レベルの「配慮」だけで可能になるような
そんな簡単なものではないのでは――?

障害児・者にかかわらず、恐らく高齢者の医療においても
もしかしたら慢性疾患のあるすべての患者のその疾患以外の医療においても

医療は医師のプライドや業績のためにあるものではなく
あくまでも患者のためにあるものだという基本を再認識してもらって、

その共通認識に立ち、
「自分にも知らないことがある。知っている人から教えてもらわねば判断できない」という謙虚さと
「この目の前の患者の目の前の病状に対して何が最善なのか」という視点を共有しつつ

医師らの専門領域ごとの垣根と(ヒエラルキーも)
病院間、病院と施設間の垣根を(ヒエラルキーも)
もう少し解消して、情報共有と協働の体制を考えてもらわないと、

いつかカナダの障害当事者であるジャーナリストHelen Hendersonが書いていたように
医療職の無知が障害者を殺しかねないのでは?

もう1つ、もうちょっと最近の関連エントリーでは
医療の無関心が助かるはずの知的障害者を死なせているという報告もあった。
2009.02.04 / Top↑
現在、米国でOTやSTなど自閉症の治療に関して
保険会社に支払いを義務付ける法律を整備しているのは27の州とワシントンDC。

ただし上限年齢は州によって様々で
Marylandでは19歳まで。
DCは21歳まで。

まだ法整備されていないVirginia州に住み
3人の子どものうち2人が自閉症だという一家の場合
その2人の治療費に2年間で5万ドルがかかったとのこと。

父親が業績のよいハイテク企業の社長さんだから出せるけれども、
それでも、子どもたちに必要なだけのセラピーは受けさせられていない、と。

米国精神衛生研究所のInsel 所長によると、
自閉症児1人に一生の間にかかる治療と介助のコストは300万ドル。

早期介入には年間6~8万ドル。
行動療法のセラピストのチャージは1時間180㌦に上る場合も。

で、Virginia州の自閉症児の親たちは
法整備を求めて議会に働きかけているのだけれど、

この経済危機の中、それでなくても保険会社は給付対象を狭めているというのに
政府からあれもこれも義務付けられることに反発しきりで
The National Federation of Independent Businessesでは
自閉症治療のコストを引き受けさせられたら廃業だと。

Seeking Help for Autistic Kids
The Washington Post, February 2, 2009


インターネットの新聞記事を開くと、
Googleが勝手に引っ張ってくる広告が片隅にずらっと並ぶのですが、

上記記事の場合、一番上に来ていたのは
キレーション治療薬のネット販売だった……。




        
2009.02.04 / Top↑
Obama政権が障害者の人権問題対策担当に任命したのは
Paul Steven Millerという著名な障害学の学者でワシントン大学の教授。

もちろん、そういう人だから
ほかにも様々な肩書きがあるし、
法学を中心に多様な領域で活躍しておられるようなのですが、

シアトル子ども病院の医療倫理委員会の委員も。
(医療倫理委員会なので、病院内倫理委員会やIRBとはまた別と思われますが)

Obama Taps Dale, Miller to Boost Disability Policy and Presence in Administration
The New York Association of Psychiatric Rehabilitation Services, January 22, 2009


この人の任命、このタイミングは、Ashley事件の中では
いったいどういう意味を持っているのでしょうか。

(Miller氏も例の成長抑制ワーキング・グループに入っています)


この人の略歴を眺めていたら、なんとなく

機能回復とか支援テクノロジーとか就労支援の施策の範囲でカバーできる障害者と
そこから漏れるタイプの障害者との間に線引きがされて、

前者にはこれまで以上の手厚い支援を、
そして後者には容赦ない切捨てを……?

なんて思ったりして、そうしたら、

英米の社会では
これから障害者の間に意図的に 分断 が画策されていくんじゃないだろうか……と

ものすごくイヤーな気分になった。



これらエントリーを今回の情報と一緒に読み返してみたら
いよいよ科学とテクノロジーで障害者施策のコストを下げる、という線が濃厚に思えてきた。
2009.02.03 / Top↑
いずれこういう話が出るだろうとは思っていましたが……。

Oxford大学の医療経済学センターが
2006年に未熟児で生まれた子どもたちが18歳になるまでにかかる社会的コスト
(医療、教育、子育てで親が休暇を取るコストなど)を試算したところ、

この子達のお陰で「公共の財布」にかかる“余分な”コストは
9億3900万ポンドにも上ることになったそうな。

米国のPediatricsに掲載された論文。

これまでに米国で行われた類似の研究でも
同じような結果が出ているとのこと。
(その研究、まさかIHMEなんてことは……)

同大学の周産期医療ユニット the National Perinatal Epidemiology Unit のディレクター
Peter Brocklehurst教授は
「未熟児の出産がどのくらいの経済負担になるかという問題は
これまではほとんど注目されてこなかった。
未熟児の出産を防ぐことにもっと力を注ぐべきだと思う」

今回の論文にも、
早産を予防する研究資金を増やすだけで年間2億6000万ポンドの
経費削減ができるという話も出てきているらしいのですが、

医療経済学者の言う「早産の予防」と
周産期医療のドクターが言う「早産の予防」というのは
全く逆の内容なんじゃないかという気がしていけない。

Public cost of premature babies
The BBC, February 2, 2009


米国でも同じような研究があったというけれど、
そういう研究をするのなら、

すでに6人も子どもがいる人に
生殖補助医療で8つ子を産ませる医療費やら

どうせ数年の延命が病院での時間になるならイヤだと本人が言っているのに
医師が裁判所に訴えてでもやりたがった13歳の少女の心臓移植にかかったであろうコストとか

他にも、いろいろと計算してみたらどうなんです──?
2009.02.02 / Top↑
中国で障害児の出産が急増している。

なにしろ中国では30秒に1人の割合で
身体に損傷のある赤ん坊が生まれているというのだから、すさまじい。

特に8つの大規模な炭鉱地域からの排出物が問題だと
統計を発表した中国当局の人口・家族計画委員会は分析している。

中国の急速な経済発展が
人間にこうした影響を及ぼしているのだとジャーナリストは批判、

研究者らも、大きな炭鉱や化学工場による環境汚染が原因だろう、と
分析しているものの、

委員会のJiang氏は

「身体障害新生児の急増は都市部でも地方でも続いており、
この増加は懸念されるので我々は政府レベルで予防プランを開始した。

同委員会は最も事態が深刻な8地方にスクリーニングのプログラムを導入した

China birth defects ‘up sharply’
The BBC, February 1, 2009


──文字通り、開いた口が、しばらく閉じられなかった。

……しかし、ふっと思うのだけれど、

これだけ化学物質による環境汚染やら遺伝子汚染やら
化学とテクノロジーによる目に見えない環境汚染が広がっているらしい世の中で、
もしも、それが科学的に証明できないだけで障害児を増加させていたとしたら、
出生前・着床前の遺伝子診断によるスクリーニングって中国政府の倒錯と何か違うんだろうか。
2009.02.02 / Top↑
ダウン症女性の母親でWP紙の記者でもあったPatrichia Bauerさんのブログから。

NY大学医学部の調査で
遺伝子診断を希望する999人にアンケートを行ったところ、
出生前遺伝子診断では、もっといろんなものを調べられるようにしてほしい、と。

何を調べたいかというと、

知的障害を調べたい人が75%
聴覚障害を調べたい人が54%
視覚障害 56%
心臓疾患 52%
癌 51%

5歳までに死ぬ病気や障害を調べたいと答えた人が49,3%

その他に
運動能力を調べたい人が10%
頭のよさを調べたい人が12,6%
背の高さ 10,4%
寿命 9,2%

Study: Broader prenatal genetic testing desired
PatriciaEBauer NEWS& COMMENTARY ON DISABILITY ISSUES
January 30, 2009


元論文は登録しないと読めませんが、
上記のまとめよりも多少詳しい記事がこちらに。

Genetic Testing Yes, ‘Designer Babies,’ No
The Med Page Today, January 28, 2009


この結果について研究者は
「多くの人が遺伝子検査は認めるものの、
“デザイナーベイビー”を作ろうという人は
メディアが騒いでいるほど多いわけじゃない」と。

運動能力やら知能やら身長やら寿命やらまで調べたいと言っている人が
今の段階で10人に1人もいるというのに──??


性別については設問がなかったようです。

いろいろある遺伝子疾患も問われていないことなど、
ちょっと設問の方に疑問も感じるのですが、それはともかく、

こういうデータがずらっと並んだ子どもの“仕様書”を前に、
若い夫婦がとても無邪気に会話している姿を想像してしまいました。

「この子、どう? ほしい?」

「そうだなぁ……ええっと……」

「運動能力はまぁ、合格ラインかな」

「男にしては背が、ちょっと低いぜ」

「私的には背は許容範囲だけどな。それより、ほら、知能の方が問題じゃない?」

「確かに背をこのままでOKするんだったら、よほど頭が良くないと勝てないな」

「だよね。寿命が長いから私たちの老後は安心できそうだけど、
成功してくれなけりゃアテにもできないしね。
じゃぁ、今度は諦めて、次ということにしようか」

「うん。ボクたち、まだ若いんだから」

「ねぇ、次は、いっそ体外受精にして着床前遺伝子診断ってやつ、やらない?」

「ああ、それ、いいな。できちゃった子どもをYES/NOするよりも、
いろんな胚から、どれがいいか選ばせてもらう方がチョイスが広がる」

「産まれたらどんな子になるのかなぁって、
1つずつ想像しながら胚を選ぶのって、なんだかワクワク楽しいよねっ」

「じゃ、次に期待して今回ははボツってことで」

「うん。それで決まり!」
2009.02.02 / Top↑
巨大製薬会社 Pfizer社による抗生物質の違法な実験に我が子が使われたとして
ナイジェリアの家族が起こしていた2つの訴訟で

これまで下級裁判所は、
国外で起こった事件なので訴訟を起こすならナイジェリアで、と訴えを退けてきましたが、

このたびNew Yorkの周回上訴裁判所は訴訟手続きを認めたとのこと。

本人にはまったく知らせずに重病の子どもたちに実験段階の薬を投与、
1996年の臨床実験では11人が死亡。
ほかに脳損傷を負った子どもや
重症の関節炎になった子もいるとのこと。

海外での違法行為で訴えられている米国の企業は他にもあり、
今回の決定は重要な前例となったと担当弁護士ら。



まずは明るいニュースではあるのだけど、
その背景を考えれば、

グローバリゼーションとは
世界中の強い者たちが
見えにくい場所にいる一番弱い者をわざわざ探し出しては、
その見えにくさと弱さとにつけこんで
他の場所や他の人にはできないようは卑劣なやり方で
物のように利用し踏みにじり、顧みないで棄て去ること???

つまり人を人とも思わない能力が
グローバル時代の企業に求められる国際競争力???

……と心が重くなるニュースでも。


これまで当ブログでも
以下のようなニュースを見るたびに頭に浮かんだのは
ナイジェリアでPfizerがやったようなことが起こっているのではないかという懸念。



それにしても、重症障害児という、
世の中の目には触れにくいところにいて
親や医師のすることに全く抵抗する術を持たない子どもたちが
ただ思い通りにできる存在だというだけでホルモンをどかどか投与されたり
健康な臓器を採るために体にメスを入れられたりって

こういうのと全く同じなんじゃないかと私にはどうしても重なってしまう。
2009.02.01 / Top↑
今回の成長抑制ワーキング・グループの結論らしきものを読んで、
私が真っ先に思ったことの1つは、

あ、この筋書きを書いたのはNorman Fostだ……ということ。

当ブログではAshley事件を詳細に追いかけてくる中で、ある段階から
Diekema、Wilfond両医師の恩師に当たるNorman Fost医師が
実はこの事件のキーパーソンではないか、と考えるようになりました。

それはもちろん証明できることではなく、
何故そう考えるかという当ブログの根拠については
これまで書いてきた多くのFost医師関連エントリーを読んでもらうしかないのですが、

彼は論争当初、子ども病院との密接な関りを隠して
あたかも利害関係のない専門家のフリを装ってメディアで強く擁護した人物。
また、メディアに登場して擁護した人たちは2つの特徴的なグループに分かれるのですが、
Fost医師はちょうどその2つの接点に、2つを繋ぐような形で位置する存在でもあります。

今回のWGの結論らしきものが、いかにFost医師のこれまでの発言とぴったり重なるか、
ここには、2007年7月のシアトル子ども病院生命倫理カンファでの
Fost医師の発言要旨をいくつか挙げてみます。

・ 裁判所の命令に強制力などないし、無視したところで
これまで医師がそれで責任を問われた事例はないのだから、
裁判所の医療への介入を許すな。
医療の決定権は医師にある。

・医療において社会的コストが問題になるのは当たり前である。
IQの低さが問題になるのも当たり前である。
IQが低ければ医療によってもたらされる利益を理解することすら出来ないのだから
そんな治療は無益である。

・治療の無益は社会がその人への医療コストを容認するかどうかによって決めるべきもの。

・ 医療介入が治療目的だけに限定されているのはおかしい。
病気で背の低い子どもにホルモン療法で背を伸ばすのは”治療”だからやってもいいが
健康なのに背が低い子どもには”強化”になるからやってはいけないというのはおかしい。
治療と強化の境目なんて決められないのだから、両方認めるべきである。

・富裕層の子どもが受ける医療と貧困層の子どもが受けられる医療とに差があるのは
当たり前のことで、そのどこが悪い?
社会が提供するサービスは最低限を保証するものでしかない。

・重い障害を持つ子どもは昔から殺されてきたのだ。
それが救われるようになったのは
80年代から始まった生命倫理の議論と
その後できてきた倫理委員会のお陰。
しかし生命倫理も今後は子どもの利益だけではなく
家族の利益や社会コストのことも併せ考えなければならない。

・これに対して会場から出た「倫理委のメンバーによってはバイアスがかかるが」との質問を
Fostは「地域の代表を1人か2人入れればそれでいいだろ」と、高圧的な口調で切って捨てました。


今回のシアトル子ども病院の成長抑制ワーキング・グループは
「外部の人を含め多様な立場を入れて検討したぞ」というアリバイ作りに過ぎず
2004年5月にAshleyケースを検討したといわれる特別倫理委と同じく
最初から「結論ありき」だったとしか思えません。

その「結論」にはFost医師の医療倫理の粗暴さが際立って感じられます。
筋書きを作ったのは恐らくはNorman Fost医師ではないでしょうか。
彼は表には出てきていませんが、もちろんWGのメンバーに入っています。

そして、それぞれの主張部分を外部に通しやすくするための合理化は
例によって詭弁とペテンの天才Diekema医師が担ったのでしょう。

Wilfond医師がシンポでWGの「結論」らしきものを示しつつ
それを「妥協点」としか言っていないのは興味深いところです。

そもそも今回の成長抑制WGは
一定の期限内に「妥協」してまで何らかの結論を出さなければならないような
性格のものではないはずなのに、

「みんな成長抑制には不安を感じていた」のに「みんなが妥協して」
「みんな重症児のQOLのことを考えて」「妥協点を見出した」と
それぞれがどう繋がっているのやらさっぱり分からない議論になったのは

WGに、どうしても合意点に達する必要があったからだし、
それは、その「結論」が最初から用意されていたからでしょう。

しかし、第1例の当事者である病院が勝手に組織したWGの検討が
いかに外部の専門家を含めていたとはいえ、どれだけ中立的な議論だと言えるのか、
その結論がどの程度の公共性を持てるものか……。

病院側も実はその辺りに無理があることは分かっているのではないでしょうか。
それなら、何が何でも正当化してしまわなければならない病院にとって、
このWGの検討は1つのステップに過ぎないのかもしれない。

もしもそうだとすれば、次のステップは、もしかしたら
米国小児科学会での重症児に対する成長抑制療法の承認……。

Fost医師はクリントン元大統領の医療倫理タスクフォースのメンバーだったり、
現在もFDAの小児科研究の倫理委員会の委員を務めるなど、
数々の肩書きを持つ米国の生命倫理界の大ボスです。

(ちなみに世界で最初にヒト胚からES細胞を取り出したThompson教授に
ヒト胚利用への逡巡を断ち切らせた人物がこのNorman Fost医師)

Diekema医師も米国小児科学会生命倫理委員会の委員や委員長を務めており
特にAshley事件以降はすっかり名を挙げて
小児科の生命倫理業界では“ブイブイいわしている”観がある。

Wilfond医師も小児科学会の生命倫理委員会に属していたことがあります。

また、子ども病院生命倫理カンファの常連講師で
Ashleyケースの擁護でも大活躍したLainie F. Ross医師も
同じく小児科学会生命倫理委員会の委員を長年(現在も)務めています。

やはり、次には小児科学会が
重症児への成長抑制を検討するという話になるのでは……?



Norman Fost 医師については
Norman Fostという人物に前半のエントリーがまとめてあります。
それ以後のエントリーも「擁護に登場した奇怪な人々」の書庫に多数。
2009.02.01 / Top↑