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前のエントリーの続きです)

Angelaの「生命の危機」はもちろん、健康問題すらどこにあるのかがはっきりしない。

・「エビデンスにより、子宮摘出は緊急であり必要」とも
どうせAngelaは普通の青少年・成人として暮らすメリットはないのだから、
長期的な影響を考えるには値せず、「短期的問題の方が重要」として、
短期的には「健康全般とともに生命の危機が基本的な問題」とされているのですが、
非常にあちこちに分散されて説明され(わざとかと思うほど)把握しにくくなっている
Angelaの健康状態に関する事実関係を整理してみると、

・出血が非常に多く、血の塊もある上に、特に夜間などに漏れるなど、
衛生上の問題が生じるほどである(母親)というのですが、
大量の出血は「2007年11月に収まった」のだから、解決している。

(ちなみに2007年とは、Angela9歳。初潮の年です)

・2007年11月に多量の出血が収まった際に、「貧血になっていたので、
鉄剤の治療で正常範囲に戻さなければならなかった」というのですが、
こう書いてあるのだから、結局これも解決している。

・生まれた時からてんかんの発作があって、母親の話で
「生理が重い時に起こりやすい。発作の予兆は様子を見ていればなんとなくわかるが、
不順な生理がいつ起こるか分からないので、いつも気が抜けない」「生理が重い時によく起こる」
しかし、一方「てんかん発作は現在のところ薬でコントロールできている」とも
書かれているので、それなら母親の証言内容は、以前の話なのでは?

・また、発作の頻度や、程度、発作によって重積状態に至ったことがあるのかないのか、
発作そのものがAngelaに及ぼす影響は具体的に何なのかについては、
まったく情報が出てきた様子はない。

・以上の事実関係から、現在も続いている健康問題は
生理による「痛みと疲れ」。それから「生理が重いと発作が引き起こされる可能性(can)」のみ。

・経口の避妊薬やDepo Provera(Diekema医師の03年論文で特記されていた薬)を含め
様々な治療が行われたが満足な効果が得られなかった、とある(現在完了形)のが
何を目的にした「治療」なのか、どういう「効果」がなかったのが不明。

「痛みと疲れ」と「けいれん発作を誘発する可能性」、
「母親のケア負担」をなくすこと(後半になって突然出てきます)だけを目的に
生理そのものを止める「治療」が試みられていたのでは?

それでは子宮摘出を医師が「唯一の治療法」と主張するのも、
「生理を止めることを目的とすれば」あとは子宮摘出だけが「唯一の治療」ということでしかありえず、

まるで貧血を防いだり、けいれん発作を防ぐための「唯一の治療」であるかのような印象を
全文を通じて与えているのは、非常に恣意的なミスリードだということになる。

これら事実関係のどこにも「健康一般」改善の必要、
まして「緊急」に回避すべき「生命の危険」は見当たらない。

したがって、なぜ子宮摘出が「緊急」で「必要」なのかについては全く説明されていない。

手術のリスクの検討は、重大な事実から目をそむけている。

・判事は医師らが「手術のデメリットは非常に少ない。
内臓を傷つける可能性がないことはないが、開腹手術は初めてだから大丈夫だろう」
というので満足しているが、

Angelaは以前に全身麻酔で埋め込み型避妊薬のロッドを入れる手術を受けており、
その際には感染症を起こして術後1カ月difficult consequencesを体験している。
しかし、この事実は子宮摘出手術のリスク検討で全く顧みられていない。

結論では、根拠が「生命の危険回避」から「QOLが向上する」ことにすり替わっている。

他に、「母親の生理ケア負担が軽減される」ことも持ち出されており、
一体何の目的で行われる子宮摘出なのか、何を根拠に認めるのかが曖昧なまま
「法にのっとって判事が子どもの最善の利益と判断したのだ」と言い張っている。

             ―――――――

個人的に特に不可解だと感じる点は、
なぜ11歳で判断してしまわないといけないのかという点。

・あれこれ検査しても生理不順や多量の出血の原因は不明だった、とされているのですが、
生理って、始まりの数年間は不順だし量も多いのが普通なのではありませんか?

でも、たいていの女性は、そのうち周期も量も安定してくるのだとすれば、
現在12歳になる直前だというAngelaは07年には9歳、初潮の直後。
割と早期に大量の出血は収まったということになるし、
初潮から2年や3年しかたっていない子どもの生理不順を根拠に、
子宮摘出を「唯一の治療法」だと、目的不明のまま、正当化する産婦人科医というのが理解できない。

・また、私は専門家ではないし、娘もRett症候群ではないけど、
うちの娘にも難治性のてんかんがあって、てんかんのある重症児は沢山見てきました。

確かに、生理の時に発作が起きやすいということは、あるかもしれない。
私は娘が小さい頃は、低気圧の日は要注意だと感じていました。

ただ、てんかん発作も生理と同じように子ども期から思春期を経て成年期へと
ライフサイクルによる変化が非常に大きいような気がする。
思春期に増加傾向を見せ、青年期に落ち着くというパターンが
一般的にはあるんじゃないでしょうか。

それなら、何度も重積を起こして死にそうになったというのでない限り、
あと数年は様子を見てから考える余地だって十分あるような気がするのですが
この点、日本の専門家のお医者さんたち、いかがお考えでしょうか。


以下の米国イリノイ州の検討過程と比べてみてもらうと、
この判決の検討姿勢がいかにいかがわしいか、よく分かると思います。




その他に、非常に大きな問題点として、
Ashley事件でのDiekema医師らの正当化の論理が
そのまま使いまわされているとしか思えない点、

Ashley事件で出てきた批判を前提に、
それに対してあらかじめ応えておく、といった箇所などが多々あり、

AngelaケースはAshley事件からKatie事件に繋がる大きなキャンペーンの中に
十分に意識的に位置付けられているという感じを受けるのですが、
これについては、また別途まとめます。
2010.03.11 / Top↑
Angelaケースの判決文を読んでみました。

絶句……。

正直、私はもう気力がなくなりそうです。
が、どうも口だけは勝手に動く業でも背負っているみたいなので
「なんで、こんなのがまかり通るんだ?」と頭の血管がブチ切れそうになった
問題点をまとめてみました。

全部で5点あるので、2つのエントリーに分けます。
英語で書くための論点整理など準備段階として、ちょっと先走りでアップしています。
この後、あれこれと細かく修正していく可能性はありますので、どうぞ、ご了承ください。

また、医学・法学の専門知識などない素人が分析したものですから、
専門家の方々からフィードバックいただけると非常にありがたいです。
よろしくお願いいたします。


判決理由を一言で要約するなら
「判事の私が親と医師らの言う通りでいいと思うから」を超えるものではない。

② Angela自身の利益を代表する「中立の、子どもの弁護士:
Independent Children’s Lawyer」の任命と敵対的審理が検討手続きから省かれている。

その理由とは

・1975年の家族法の規定は
「必要とみなした場合に、裁判所はICLを任命してもよい」というものであり、
私はこのケースではICLの任命はAngelaの最善の利益にならないと考えた

・なぜICLの任命がAngelaの最善の利益にならないと考えるかという理由は2点で、

a.ICLの仕事の1つは調査だが、調査なら両親の弁護士と主治医とによって
包括的かつ広範に、既に行われているので、これ以上の調査は必要がない。

b.IClを任命したとすれば役割は反論することだが、
治療のデメリットについては主治医が述べていることで十分。

(ただし、判事が意見を採用した3人の医師のうち1人が主治医で
あとの2人の意見書も主治医が書いてもらって提出したもの)

この公判には地域局の局長代理としてMr.Gが加わっており、
Mr.Gは賛成も反対もしていない。それは反論する必要がないからである。
公益を代表する地域局が中立を保っているのは
現在のエビデンスで十分だからである。
特に地域局が母親の立場に反対していない点を重視。

(この後、関連の法文からICLの職務に関する項目を羅列し)

「これらの規定に鑑みて、
Angelaがこのケースで代理されることには利益がないと考えることに私は問題を感じない」と結論。

しかし、その結果、そこに引用された規定の中でICLの仕事とされている、

(5)の(c)手続きの過程で当人に関する報告や文書が使われることになる際には
その内容を分析して、最も子どもの最善の利益の決定に重要と考えるものを見極めて
裁判所がそれらの事項に適切に注意を払うことを保証する、ことや

(5)の(d)手続きに関連して子どものトラウマが最小になるよう努める、こと、

(5)の(e)それが子どもの最善の利益になるように問題解決の合意を手助けする、こと

は誰によっても行われなかったことになるし、

・一方「地域局の局長代理のMr.Gなる人物は
如何なる法的資格によって参加しているのか」
「地域局による公益判断は、このような“特別医療”の判断において
法的にどういう位置づけで重要視されるのか」については全く説明されていない。

・「親と医師らのいう通りに、子宮摘出は本人利益だと判事が考えるので、
本人利益を代表するICLは本人の利益にならない」とは、一体どういう検討“プロセス”なのか。

こんなの、すべて、本人のみの利益を代理する人を除外するための牽強付会の合理化に過ぎない。

・ついでに指摘しておくと、
「この子宮摘出は不妊を目的とするものではなく不妊は結果に過ぎないので、
本当は特別医療の規定対象にならないのだけれども、
侵襲度が高く不可逆であることから、敢えて高裁の判例によって判断する。
関連法では、親ではなく裁判所の命令で、ということなので親ではなく判事の私が判断した。

また、子どもの福祉に関する命令を出す時には
裁判所は子どもの最善の利益を最優先にしろということなので
それに従って、子宮摘出が最善の利益だと私が判断した」ということも
書かれているのですが、

そのプロセスは上記の通り。これでは
私に権限がある、その権限で私が認めた。文句あるか?」と言っているに等しい。

次のエントリーに続く)
2010.03.11 / Top↑
今朝のエントリーで紹介した豪の重症児の子宮摘出訴訟について。



えらそーにリンクしてみたものの、実は判決文はまだ読めていないので、
事実関係の情報ソースは以下の記事3本のみです。

(その後、読んで、こちらにまとめました。)

DISABLED GIRL CAN BE STERILISED: COURT
THE MIKIVERSE, From the westaustralian.com.au, March 10, 2010



(Telegraphは Ashley事件には触れているのに自国の Katie事件には一切触れていない)


【とりあえずの事実関係の整理】

・名前はAngelaとのみ。11歳。

・レット症候群。


・意思疎通できない。
「三か月児のようにふるまう acts as a three-month-old baby would」
 話すことができない。
 身体の動きを制御することができない。
 食事も移動も入浴も両親の介助に依存。
「膀胱をコントロールできないのでオムツを使用」。
立つことができないので、(歩く時は?)特殊な歩行枠に「体を縛り付けなければならない」。

・生まれて以来てんかん発作があるが、現在は薬でコントロールできている。
 9歳の時から生理の出血が多いと発作が起こりやすい(「と両親は考えている」との表現も)。
母親の話では生理の不順で痛みと疲れがある。
母親の話では3人の産婦人科医が子宮摘出が最善の解決策だと合意した、とのこと。

・2009年3月に専門家から子宮摘出を勧められたが
Queensland Health(英国のNHSに当たる)は弁護士の助言により
裁判所の命令なしにはできないと判断した。

・オーストラリアでは92年に、子どもへの侵襲度の高い不可逆的な医療については
親の判断ではなく裁判所の命令が必要と高等裁判所の判例があり、
それに基づいて、家庭裁判所が判断することとなっている。

・判決は子宮摘出について「緊急であり必要だった」
「Angelaには正常な青少年・大人として生活することはできない」
「検討の基本は、Angelaの健康全般と生命へのリスク」

・Brisbane 家庭裁判所のPaul Cronin判事は
この決定はAngelaの生活を改善し、したがって「本人の最善の利益だ」と。

・両親は南アメリカで結婚、91年にオーストラリアに移住。


【メディア記事に引用された各方面のリアクション】

Mark Patterson, the National Council on Intellectual Disability

92年以降のシステムが良好に働いた事例として、支持。
人権よりも、“本人の尊厳”が優先されたケースだ、とも。

「こういう子の家族は、本当に大変な思いをしてきているんです。
できる限りの手を尽くしてから、お手上げ状態となり
『これ以上、どうすればいいんだ?』と言っているんです。
そういう人の言うことなんだから、give them a bit of a break 聞いてあげましょうよ」

「難しい問題ですが、我々としては現実的に考えます。
我々が不妊手術をダメだと言ったら、家族の日々の生活は楽になりませんからね」

(この人だけは、3本の記事のすべてに登場しています。
どうも、ちょっと、言うこともヘンだ。まさか、手が回っている……?
それとも、ここは知的障害者のアドボケイトじゃなくて親のアドボケイトなのか?)

Dr. Leanne Dowse, the University of NSW

「2008年7月にオーストラリアは国連障害者人権条約に署名している。
条約は障害者に身体の統合性を尊重される権利を認めている。
それは、すなわち、こういうことから障害者が守られることが第一義」

Carolyn Frohmader, Women with a Disability Australia

「不妊手術と言えば、いつでも女の子ばかり。
不妊の事例を調べてみたら分かりますが、男の子は一人もいません。
どんなに知的障害が重くても、男の子はいないんです」

Therese Sands, People with Disabilities Australia

「未だに子どもたちが不妊手術を行われているなんて問題だと思います。
私たちの考えでは、判事であろうと親であろうと、それが生死にかかわるのでない限り
子どもに不妊手術を行う権利は誰にもありません」

Daily Mailに引用された「ある障害児の母親」

「これに関してはAngelaの両親に完全に賛成。
重症児の娘がいて、ずっと闘い続けているのだけど、
まだ娘の子宮摘出を実現できていません。
生理の間は、癇癪を起すし、ものすごく攻撃的になるんです」

(こういう理由で許されるとなると、重症児だけではなく、
いろんな障害児に適用されていきそうですが)


【ブログ:支持】

State approval for bona fida medical care…
the Faithful Penguin, March 9, 2010

この人は「米国では年間5万人がてんかん発作で死んでいるのだから
この決定はAngelaの命を救うものだ」と。

(てんかん発作のある女性みんな子宮摘出させるんですか? 命を救うために?)


【ブログ:批判】

2010.03.10 / Top↑
【お詫び】

某MLに「FENの4人に有罪判決」と誤報を流してしまいました。
実際は「起訴」に過ぎないのを、早とちりしてしまったものです。
逮捕からずいぶん経っているので、もうとっくに起訴されたんだとばかり思いこんでいたところに、
オーストラリアの重症児の子宮摘出ニュースで頭がオーバーヒートして、
つい、見たいものを見てしまいました。お詫び申し上げます。

   -----

当ブログで事件当時、かなり追いかけたFEN事件で
プレジデントのThoman Goodwinら4人に対して
自殺幇助、証拠隠滅、組織犯罪防止法(?)違反の容疑で起訴。

FENそのものも起訴された、とのこと。

この大陪審で起訴になったのは、当初逮捕のきっかけになった癌患者男性の自殺幇助。

事件発覚のきっかけは、このジョージア州での自殺幇助ですが、その後、
いくつかの州にまたがる活動で何十人もの自殺を幇助したことが確認されています。

弁護士は、「なに、ウチのクライアントは無罪になるさ」と。


こちら、Seattle Post-Intelligencerにもっと詳細な記事。
(シアトルの地元大手新聞は、自殺幇助関連記事は熱心に報道していますね。さすがに、と言うべきか)
http://www.seattlepi.com/national/1110ap_us_assisted_suicide_network.html


事件の詳細は以下に関連エントリーをリンクしましたが、
我ながら、いくらなんでも、こんなにあったら読みたくねーよ……と感じます。

事件の概要は「介護保険情報」2009年4月号の連載で書きました。
こちらで読めますので、よろしかったら、どうぞ。

(リンク記事の後半がFEN事件です。
FENのHPは今は閉鎖されたようですが、
当時読んだ仰天の内容をまとめています)


2010.03.10 / Top↑
オーストラリア、クイーンズランドの11歳の重症児Angelaに対して、
生理が不順で貧血を起こしたり、てんかん発作を誘発しているとの理由で
両親が子宮摘出を求めていた裁判で、
Queenslandの家庭裁判所は2月16日、
両親の訴えを認める判決を下した。

Angelaは食事も移動も入浴も全介助の重症児。
意思疎通ができず「3か月の赤ん坊のようにふるまう」。
記事の書き方をそのまま引くと
「膀胱のコントロールが全くできず、おむつをしている」。

母親によると9歳の頃から生理不順で、痛みと疲労がみられたが、
薬が効かず、医師3人がAngelaには子宮摘出が望ましいとの見解を示した。

Angelaの担当医は裁判で、多量の出血が貧血を引き起こしている、
将来の妊娠を考慮しなければならないような知的な能力を
Angelaが身につけることは、この先も決してない、と証言。

ある小児科医は「妊娠するようなことがあったとしたら
それはAngelaにとっては、たいへんな悲惨なこととなる」と。

家裁のCronin判事は、この決定はAngelaの生活を改善するだろう、と。

しかし障害者団体からは虐待、人権侵害であり、
障害児をケアすることに苦労している夫婦のための「簡単解決」だと批判。

NSW大学の障害学の学者 Dr. Leanne Dowseは
両親が障害のある子どもに侵襲度の高い不可逆な医療を求めた訴訟で
裁判所がそれを認める判決は長年出ておらず、珍しい“unusual” と指摘。

障害のある子供のための決定権が誰にあるかという問題のほかにも、
この事件によって障害者の介護者への支援サービスが足りないという問題も
浮き彫りになった、

1980年代から政府が地域生活支援を改善することなしに
入所サービスを削減してきた結果、家族の負担が大きくなってしまった、

「それでなくともニーズが満たされずに苦労している家族にとって、
生理は、また厄介が一つ増えた、ということになってしまう」と。

Parents win bid to sterilize daughter
The Brisbane Times, March 9, 2010


ニュースを知ったばかりで、今は、まだ、ちょっと戸惑い気味。

早速に、物書きをやっている障害児の母親が
ブログで、Ashley事件、Katie事件と一緒にして批判している。

much ado about nothing
Alex Field, March 9, 2010

このケースは、今後、やはり
AshleyやKatieのケースを引き合いに出して
同じ問題として論じられるのだろうなというのは
私も記事を読んで、すぐに思った。

特に、「どうせ生後3カ月の赤ん坊と同じ」
「どうせ、この子には無用の子宮」
などはAshley療法正当化の論理と全く同じ。

それから
親と医師は「生理による貧血や発作」など「健康上の問題解決」を理由にしているのに、
判事の「生活を改善させる」という発言は「QOL向上=本人利益」と捉えるもので、
じゃぁ、容認の根拠は健康上の問題ではなくQOLにすぎないのか、という点が、ものすごく不可解。

ただ、「貧血とてんかん発作」は
Ashley事件にもKatie事件にもなかった「本人の健康問題」なので、
そこは整理した上で考えなければならないケースなのではないか、という気もするけど、

なにしろ、もっと詳細な事実関係が分からないうちは何とも言えない。

ものすごく気がかりなニュースではある。

……というか、自殺幇助合法化ロビーが世界中で次々いろんな事をしでかしてくれるように
Ashley事件でも、これから世界のあちこちで、いろんな事がしでかされていくのかなぁ……なんて
つい考えさせられてしまうのが、本当にウンザリだ。

【追記】
その後、こちらのエントリーで事実関係を整理しました。


2010.03.10 / Top↑
【自殺幇助関連】

Connecticut州で2人の医師とCompassion & Choiceが、医師による自殺幇助を縫合的な治療とみなすように求めている訴訟の公判が開始され、州側はその判断をするのは法廷ではなく議会であると主張。
http://www.theday.com/article/20100309/NWS12/303099910/1019&town=

こちらもコネチカットの自殺幇助訴訟のニュース:記事の本文を途中で分断する形で、見るからに恐ろしげな黒人男性2人の顔写真が挿入されているので、訴えを起こした医師の写真なのかと一瞬、錯覚しそうになって頭が混乱したのだけど、なんと指名手配犯の写真だった。人騒がせなところに差し込まないでよ。もう。
http://www.nbcconnecticut.com/news/local-beat/Courts-Take-on-What-Assisted-Suicide-Means--86834622.html

英国のthe Medical Protection Societyから、ガイドラインが出たことで、医師の自殺幇助は前より起訴のリスクが高くなったから要注意、と。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/181522.php


【その他】

米国で、乳がんで乳房切除する際に、癌になった方はもちろん健康な方の乳房まで全摘してほしいと要望する患者が2006年の倍に急増している。「自分の精神安定のため」「心配したくなかったから」「できることはすべてやりたかったから」:これも「予防に勝る良薬なし」の“予防医療”文化の一端か。米国の「科学とテクノの簡単解決文化」は思いもかけない新たな様相を次々に繰り出してくるので、そのたびに「あちゃ、そういうのもありかぁ」とびっくりさせられるのだけど、この話には「そりゃ、本人さえ納得ずくなら確かに一定の合理性はあるかも」と思ってしまった私は、もうかなり毒されてきたのかもしれない。だって、それを先に進めたら、「取れるもの」「要らないもの」は安心のために、いっそ、とっちゃいましょう、という「病気の可能性=臓器」をマイナスしていく“予防医療”思考サイクルにはまり込んでしまう。そういえばAshley療法の論理って「Ashleyには子宮も大きな乳房も不要である」からスタートしていたんだった。「不要なものは取ったってかまわない」んじゃなくて、「どうしても止むをえないから取るだけ」だったはずなのに、そこが転倒してしまいつつあるような……。
http://well.blogs.nytimes.com/2010/03/08/after-cancer-women-remove-healthy-breast/?th&emc=th

ワールドカップに向けて大量の観光客と周辺国からの売春婦の入国が見込まれる南アフリカが英国にコンドームの提供を求め、英国から42万個のコンドームが送られた。なお、南アフリカのHIV感染者は成人の5人に1人という高率。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/mar/09/condoms-south-africa-world-cup

赤十字と国連による、アフリカのポリオ撲滅キャンペーン。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/8553206.stm
2010.03.09 / Top↑
3月5日にワクチン施策への提言論文を読んだ際に、
去年12月の補遺に拾ったままエントリーにしていない情報が
結構、重要なのではないかと思い出したので、以下に。

2002年から2009年まで米国疾病予防管理センターCDCを率い、
Obamba大統領の就任に際して職を辞したDr. Julie Gerberdingは、
今年の1月25日付で、Merck社のワクチン部門(50億ドル規模)の責任者に就任しています。

Merck社とは、HPVワクチン、Gardasilの製造販売元ですが、
去年9月期決算ではGardasilの売り上げは22%もダウン。

ライバルGlaxoSmithKline社のHPVワクチン、Cervarixの方が
米国の推奨ワクチンとなり、好調なため。

(去年、たしか英国でも、安価だとしてCervarixが使われているという
記事を読んだ記憶があります)

また、GlaxoSmithKline社は途上国でもマーケッティングを行っている。



おそらくMerck社の起死回生策なのでしょうけれど、

CDCの官僚がビッグファーマとこんなにも仲良しの関係であって
果たして、いいものなのか――?


それに、このロイターの記事、
どうやらビジネス関連として扱われているらしくて、
記事の上下にも右のコラムにも、「株式」情報や株式情報関連ボタンが並んでいる。

他にも、
The Wall Street JournalのBusiness欄 (December 21, 2009)
http://online.wsj.com/article/BT-CO-20091221-709821.html

それから、やはりビジネス関連中心のthe Bloomberg News (Philadelphia Business Today)
http://www.philly.com/philly/business/79879282.html

あ、これらは別に私が作為的にそういう記事だけを拾ってきたわけではなく、
もともと、この情報を知ったのが、いつも覗いているMedical News Todayで
そのMNTの記事が拾ってリンクしていたのが上記の記事だったということですから、
念のため。


        -------

ついでに、昨日、たまたま見つけたのだけど、
3月10日に Bill Gates氏が米国上院で話をするらしい。

テーマは Building on Success: New Directions in Global Health


もちろん「グローバル・ヘルスの新たな方向」の1つは
間違いなく「ワクチンによる予防医療」でしょう。

CDCの高級官僚がこんなにもワクチン・ビッグ・ファーマと仲良しで、
ワクチン・ビッグ・ファーマも 米国政府も WHO も、Gates財団とは仲良し。
で、ここに保健施策としても経済施策としても意見(利益?)が合致した三角形ができあがっている。

日本だけが、その三角形の外に、その三角形とは無縁に存在している……なんてことがあるでしょうか?
2010.03.09 / Top↑
前のエントリーの続きです)

起訴の公益ファクターとしては
1. the victim was under 18 years of age;
2. the victim did not have the capacity (as defined by the Mental Capacity Act 2005) to reach an informed decision to commit suicide;
3. the victim had not reached a voluntary, clear, settled and informed decision to commit suicide;
4. the victim had not clearly and unequivocally communicated his or her decision to commit suicide to the suspect;
5. the victim did not seek the encouragement or assistance of the suspect personally or on his or her own initiative;
6. the suspect was not wholly motivated by compassion; for example, the suspect was motivated by the prospect that he or she or a person closely connected to him or her stood to gain in some way from the death of the victim;
7. the suspect pressured the victim to commit suicide;
8. the suspect did not take reasonable steps to ensure that any other person had not pressured the victim to commit suicide;
9. the suspect had a history of violence or abuse against the victim;
10. the victim was physically able to undertake the act that constituted the assistance him or herself;
11. the suspect was unknown to the victim and encouraged or assisted the victim to commit or attempt to commit suicide by providing specific information via, for example, a website or publication;
12. the suspect gave encouragement or assistance to more than one victim who were not known to each other;
13. the suspect was paid by the victim or those close to the victim for his or her encouragement or assistance;
14. the suspect was acting in his or her capacity as a medical doctor, nurse, other healthcare professional, a professional carer [whether for payment or not], or as a person in authority, such as a prison officer, and the victim was in his or her care;
15. the suspect was aware that the victim intended to commit suicide in a public place where it was reasonable to think that members of the public may be present;
16. the suspect was acting in his or her capacity as a person involved in the management or as an employee (whether for payment or not) of an organisation or group, a purpose of which is to provide a physical environment (whether for payment or not) in which to allow another to commit suicide.

容疑者が得る利益の程度については常識的に判断する、という内容のことが
注記されています。

不起訴の公益ファクターとしては
1.the victim had reached a voluntary, clear, settled and informed decision to commit suicide;
2.the suspect was wholly motivated by compassion;
3.the actions of the suspect, although sufficient to come within the definition of the offence, were of only minor encouragement or assistance;
4.the suspect had sought to dissuade the victim from taking the course of action which resulted in his or her suicide;
5.the actions of the suspect may be characterised as reluctant encouragement or assistance in the face of a determined wish on the part of the victim to commit suicide;
6.the suspect reported the victim's suicide to the police and fully assisted them in their enquiries into the circumstances of the suicide or the attempt and his or her part in providing encouragement or assistance.

なお、去年9月の暫定案の起訴・不起訴それぞれのファクター原文はこちらのエントリーに。

ざっと読み比べてみて、すぐに目につく大きな改正点は

・暫定案の「ターミナルな人、不治または進行性の重症身体障害のある人」という
対象者要件が削除された。

・「自己決定能力」がMCAの規定によるものとして明確に定義された。

・医療者、介護者または刑務官など職業上の権限を持つ者が
職務上の立場で担当する者に対して行動する場合を起訴ファクターとして明示。

・一部の自殺幇助合法化アドボケイトらのネットでの教唆や情報提供や、
ボランティアでの幇助、Dignitas(名指しはされていません)の行為などを起訴ファクターとして明示。

これらは、概説での
「すべての事件が詳細な捜査対象となる」とか
「まず詳細なエビデンスを検討する」
「慈悲殺とは一線を画す」といったことの確認、強調とともに、
確かに評価できる点ではあるのですが、

私がとりあえず個人的に感じる疑問としては、

・ターミナルな状態だとか不治の重症障害などの対象者要件をはずし、
特定の状態の人への法的保護が薄れる状況は避けたものの、その逆に、
英国における「死の自己決定権」を包括的に認めてしまったのでは?
そして、その「死の自己決定権」に基づいて、
一定の自殺幇助を事実上、合法化するものなのでは?

・容疑者があくまでも「大きな利益を得る立場にはなく」
「決心を翻させようと説得した後に」「思いやりからのみ」
「しぶしぶ」幇助したことを不起訴ファクターとしている点について、
介護する人される人の間にありうる非常に複雑で微妙な関係を思うと、
表面的には分からないことも多いんじゃないのかなぁ……と。

・当人の自殺の決意が「自発的で、明白で、迷いがなく、
なおかつインフォームされた決意」であることが条件とされているのだけれど、
informed decision というところに、暫定案にあった「ターミナルな人、
不治や進行性の重症身体障害のある人」という要件の残滓が
臭うような気がするのだけど、気のせいかな。

・誰かがどこかで「薬を飲めない人にコップを口元まで持って行って飲ませるのも、
自分でできないから枕を顔に押し付けてくれと頼まれて、それをやるのと、
どう線引きするんだ」とガイドラインの発表前に書いていたけど、

「犠牲者が身体的にできることを手伝ってはいけない、
手伝いは小さなものでなければならない」という点と、
「犠牲者の命を終わらせる行為は殺人または過失致死」という点の間で、
現実の判断はどういう行為までを許容していくのだろう。

・ガイドラインそのものが
「自殺したいという人がどうしても気持ちを変えなかったら、
その人が自分でできない部分については少々なら手伝ってもいいですよ」と
いうことにしてしまったわけだから、いったん許容されてしまった以上、
その許容される行為の範囲は、この後、様々な事件が出てくるにつれて、
(例えば判事の間の判断のばらつきによって)広がっていく可能性はないのだろうか。

・自殺幇助と慈悲殺を明確に区別し、慈悲殺は断固として起訴する、と
強調してあることは評価できるのだけれど、Gilderdale事件を振り返ると、
公訴局がそこを区別して起訴しても、その後、判事がそこを区別せず
「愛と献身」で無罪放免するところまで英国の空気が高揚していることのも事実。

それだけに、その空気に流されず、あくまでも現行法にのっとって
理にかなった「明確化」がされたとも言えるのかもしれないのだけど、
このガイドラインで果たして合法化に向けた流れに、どの程度の歯止めがかかるのか……。
2010.03.08 / Top↑
ガイドラインそのもののサイトはこちら

まず、最初に、いくつかの項目ごとに述べられている概説や注記事項から
個人的に特に目に付いた点を、以下に。

【捜査】
・自殺を勧めたり幇助した事件は全て警察の捜査対象となる。

・自殺を勧めたり幇助することは現行法では最高14年の懲役刑となる犯罪行為である。

・このガイドラインはPurdy判決を受けたもの。ただしPurdy判決は法を変えるわけではない。
(法改正は議会にのみ可能)

【決定過程】
・警察の捜査を受けて、検察が起訴の有無を判断する場合には the Full Code Testによる。

・Full Cord Testとは、(1)証拠段階、(2)公益段階の2つの段階を順次踏んで起訴の有無を検討するというもの。どんなに重大な、または難しいケースであっても、証拠段階を通過しない限り公益段階の検討は行わない。起訴を正当化する証拠が十分にある場合にのみ、公益において起訴が必要かどうかの検討を行う。

・Full Cord Testを通過したケースについてのみ、DPPは起訴に同意する。

【証拠段階】
・1961年自殺法のセクション2が修正され、2010年2月1日に施行となった。それにより、検察は自殺教唆または幇助の行為が行われた時期を特定しなければならない。その時期が2010年2月1日以降であれば、同法セクション59とthe Coroners and Justice Act 2009のスケジュール12が適用される。

(この後を読むと、改正の内容は、インターネット上で不特定多数に向けて自殺を勧めたり幇助したりすること、またその意図をもった誰かをそそのかしたり幇助したりすることに拡大された、ということではないかと思われます。教唆について、改正前と後で英語の文言は変わっています。私は専門的にはどういう訳語が正しいのか知りませんのでお断りしておきます。)

特に「自殺を勧めたり幇助することと殺人または過失致死との別」の項目では
以下のように書かれています。

・自殺の行為とは、犠牲者が自分の命を奪うこと。

・ひとえに他者の望みに応じることのみを目的で行うことであるとしても、他者の命を終わらせる行為は殺人または過失致死である。

・例えば、犠牲者が自殺を試みて、意識を失っただけに終わった場合に、その犠牲者の死の原因となる行為を行うとすると、たとえ当人は犠牲者の明らかな望みを実行するだけだと考えていたとても、それは殺人または過失致死である。

【公益段階】
・公益のアセスメントは、単にあてはまる両ファクターの件数を比較して決めるものではなく(チェックボックス・タイプの検討ではない)、個々の事件の事実と性格に応じて検討される。

・1つのファクターに当てはまらないことは、それだけで直ちにそのファクターの反対の判断となるわけではない。犠牲者が「18歳以下」ではなかったというだけで、起訴ファクターが不起訴ファクターに変わるわけではない。

・自殺の状況と犠牲者の精神状態に関する情報源が容疑者のみということが時にあり得るが、検察官も捜査官も可能な限りのリーズナブルな関係筋の事情聴取を徹底することによって容疑者の説明の裏付けを取るべきである。

・もしも、事情聴取を全て終わっても、いずれかのファクターについて自殺の状況や犠牲者の精神状態に関する容疑者の説明に疑問がある場合には、そのファクターがあると判断するには情報が不十分と結論するべきである。

次のエントリーに続く)
2010.03.08 / Top↑
自殺幇助関連

コネチカット州で去年2人の医師が自殺幇助の合法化を求めた裁判の審理が月曜日に始まるらしい。
http://www.nhregister.com/articles/2010/03/06/news/doc4b933aab5cd01755332818.txt

Brown首相が、ガイドラインの発表をはさんで、再度、合法化に反対の立場を強調。選挙を意識しつつも、この点は踏ん張って世論に抵抗しておられる勇気に拍手。
http://www.lfpress.com/comment/columnists/rory_leishman/2010/03/05/13129176.html

England と Walesのカトリック司教がガイドラインの改定版を歓迎。暫定案で、ターミナルな人と障害者への法的保護が保障されていなかった点と、近親者ならみんな愛と思いやりで行動すると前提されていた点が改善されたため。
http://www.americamagazine.org/content/signs.cfm?signid=358


その他

日本語。認知症患者の精神病床受け入れ増。:介護保険の方では療養病床の大幅削減、自立支援法の方では精神障害者の社会的入院の解消。どちらも、地域での受け皿を整備するよりも先に削減ばかりが性急に強引に推し進められると、その間でこういうことが起こるべくして起こる……というような……。
http://www.shinmai.co.jp/news/20100305/KT100227CVI090002000022.htm

日本語。イタリアで若者に親からの独立を強制する法律の制定が話題になっている。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn/20100307/20100307-00000117-fnn-int.html

上記、イタリアの議論の背景には、こういう訴訟の増加などがあるらしい。日本語のブログから。
http://blogs.yahoo.co.jp/ac965kyten654/9262684.html

Washington D.C.の公立学校で、治安維持のため学校に派遣されている警察官が状況把握を間違えて生徒を不当に逮捕してしまうケースが続発。訴訟も起きている。:学校に警察官が派遣されていることがデフォルトなんだ……。
http://www.nytimes.com/2010/03/06/opinion/06herbert.html?th&emc=th

エイズ予防のため、D.C.が女性用コンドームを無料で配布。米国初。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/03/05/AR2010030504444.html

Illinois州の臓器提供「みなし同意」制度導入論議について、Wesley. Smithが書いている。
http://thehumanfuture.blogspot.com/2010/03/battle-over-consent-in-illinois.html
2010.03.07 / Top↑
ヨーロッパ医療機構(EMEA)が長期に行った調査を受けて
去年の5月27日に、ヨーロッパ・コミッションが
リタリン、コンサータなど、 メチルフェニデート製品に対する警告を発し、
製造元の製薬会社に有害な副作用について長期間の調査研究を命じた。

提出を命じられたのは、例えば、ウツ、攻撃性、精神反応などの副作用や、
学習や知的機能への影響など、認知への影響についてのデータ。

それに対し、当該製薬会社数社の連合から
以下の非公開の報告書が去年10月30日に提出された。

Feasibility Assessment of a Study of Long-term Effects of Methylphenidate on Cognition and Psychiatric Outcomes.
(メチルフェニデートが認知と精神アウトカムに及ぼす長期的影響に関する研究の実行可能性アセスメント)

その内容がこのたび、スウェーデンの裁判所によって公開された。

報告書は
例えばADHDの子どもの26%は双極性障害を伴っているとの調査結果などにより
ADHDは他の精神障害を併発していることが多いため、
副作用の影響のか、他の障害による症状なのかが分からない、
したがって、副作用の検証研究は実行困難、と主張。

また、製薬会社から多額の資金提供を受けていたBiederman医師や
同僚のWileens, Spencer, Faraone医師らについて頻繁に言及し、
むしろ認知機能や学習にポジティブな効果のエビデンスが出ている、とも。

しかし、記事は、
メチルフェニデートが偏執、攻撃性などの精神反応を引き起こすことは、
2006年のFDAの報告書など多くの研究で実証されている、とし、

警告が出されるまで何年間にもわたって、
副作用で起こっていることを別の精神障害の症状と解されて
多くの子どもたちに抗精神病薬が投与されてきた、と。

はたしてヨーロッパ当局は、どのように対応するのか、
安全性の調査を阻もうと抵抗するビッグ・ファーマの言い分を受け入れるのか、
それとも子どもたちへの害を防ぐことを選ぶのか、と記事は書いている。

2010.03.07 / Top↑
以下の論文を読んだ。

待ったなしのワクチン政策
世界に恥じない「総合的な戦略」が求められる 
川渕孝一、ポール・タルコット
社会保険旬報NO.2413~2414(2010年2月1日号・11日号)

去年の夏に読んだ朝日新聞のワクチン記事と、ほぼ同じ路線。
あの記事では「米国では」を“印籠”に「日本は遅れているのだから、
もっと子どもにワクチンを打って、早く追いつかなければ」という論旨だった。

こちらの論文は、論旨の展開の都合に応じて、
あるところでは公費投入・法整備による国家施策態勢のフランス、ドイツを例にとり、
あるところでは州ごとの対応になっている米国のデータを引いてきているので、
著者らが「このままでは世界に恥じるぞ」と脅したり
日本では「“世界の常識”が通用しない」と嘆く時の「世界」とは
各国の「ワクチン先進国」部分を寄せ集めた集合体としての「欧米」のようです。

で、それに引き換え、未だに地方自治体に丸投げして任意接種のままにしている日本は
「世界」に比べてはるかに接種率が低くて、そのワクチン政策の遅れは20年にも及ぶ。

この「ワクチン・ギャップ」は早急に埋める必要があるというのが著者らの主張。
「世界」水準に追いつき、子どもの命を守り、医療費を削減するために提案されているのは、

児童手当の一部を割いて(新制度だと「子ども手当て」のこと?)ワクチン用基金を立ち上げ、
(子どもの命を守るのだから国民も同意するだろう……て、します?)
財源を安定的に確保することを含め、副作用の救済制度の整備も含めた法的整備を進め、
さらに保険対象にしたり、税金の控除対象にするなど、考えうるインセンティブをすべて動員して
「国民が必要な時に必要なワクチンを安心して接種できる体制に」しなけりゃならん、と。

去年の朝日の記事から引きずっている、ものすごく素朴な疑問が
またぞろ頭に浮かんできた。例えば、

①「ワクチン・ギャップ」があるから早急に埋めなければ、というけれど、
その「ワクチン・ギャップ」、国民の「健康ギャップ」になってない……のでは?

こちらのデータによると、日本の乳幼児の死亡率は世界でも最低クラスとのこと。
そして日本は確か、長寿の国でもありますよね。

一方、これまで当ブログが拾った情報によると、
「CDCが推奨するワクチンは14種類」「米国政府が推奨するのは17種類」で
川渕氏らによると「予防接種で予防できる疾患は全て接種率を高めて駆逐する」ことを
政策目標としているワクチン先進国・米国は

こちらのNYTのコラム二ストの情報によると、
今年1月にthe New England Journal of Medicineに発表されたランキングで、
米国が一位になったのは医療費の大きさのみ。
乳幼児の死亡率では世界で39位だし、
成人女性の死亡率では43位。
成人男性の死亡率でも42位。

これらのデータ、逆にワクチンの有効性が疑われる、もしくは、
ワクチン接種に代わる保健施策が日本では有効に機能しているというエビデンスでは?

それなのに「ワクチン・ギャップ」をそんなに急いで埋めなければならない根拠って?

②罹患率が欧米では低く抑えられている水痘症、おたふく風邪に
日本人は毎年100万人もかかっていると著者らは嘆いているのだけど、
それらが現在の医療水準で重症化を十分に避けられる病気なのだとすれば、
公費を投入し、政治的に法的整備をし、義務付けをしてまで、
感染患者を是が非でも減らさなければならないほどの事態なのか?

むしろ、現在の医療水準と社会状況からすれば、
同じ公的資金が割けるのだとすれば、無保険問題をはじめとして
子どもの貧困への対応や産科、周産期、小児科医療の充実に投入する方が
「子どもの命を守る」実効がはるかに大きいのでは?

③一番不可解なのは、去年、日本でも新たに認可されたHPVワクチンに関する記述。

著者ら自身、HPVについては
「感染しても必ずがんが発症するわけではない。
80%の女性が感染経験を持つとされるが、
大半は無症状のまま自然消滅する」と書いている。

それなのに、別のところには
「12歳の女児全員に接種した場合、その発症数及び死亡数を約73%減少させるという」とある。

また、このワクチンに関して「感染の蔓延を防ぐ」という表現も。

でも、HPVって、早急にワクチンで手を打たなければ
「感染」が際限なく「蔓延」して、死者がどんどん増える……という話です?

ちなみに、HPVは性行為による感染だということは、この論文には書かれていません。

効果が約20年とされていて、12歳で打っても、効果が切れた後に
性的にアクティブな時期が続くことから効果を疑問視する声があることも書かれていません。

もちろん、英米で副作用死が報告されていることも書かれていません。
(これらの詳細は文末のリンクに)

そもそもHPVへの感染は、発がん率を高くする前段階の条件の1つにすぎなくて、
しかも感染しても、そのほとんどは自然消滅するのだとしたら、
「感染の蔓延」がそのまま「子宮がんの蔓延」と重なるような
イメージ操作が行われること自体が、一種のマヤカシなのでは?

また、この論文によると子宮頚がんによる死者は年間3500人。
ここには書かれていませんが、癌治療の日進月歩を考えれば、
この数は将来的には、さらに減っていくのではないでしょうか。

年間3500人が死亡する(さらに減ると見込まれる)病気を、女児全員に副作用のリスクを冒して
(この人の主張によると「効果と安全性」などの「各論は後回し」にしてでも早急に、
子ども手当ての一部を割いてわざわざファンドを作ってまで)ワクチン接種で予防することの
意義が、なぜ、それほど大きいのか。

それらの疑問を念頭に、もう一度、読み直してみたところ、
どうも、このあたりがヒントかも……と思う一文を見つけた。

上記で引用した「国民が必要な時に必要なワクチンを安心して接種できる体制になるはずだ」に続けて、
以下のように書かれているのです。

そうなれば、今後の日本を支える数少ない成長分野として
ワクチン産業が位置づけられるようになると考えるがいかがだろう。

これ、結論部分。

そういえば、
「今後5年以内に新しいワクチンが次々と開発され使用可能になっても」
このままでは日本で接種が伸びないというくだりがあって、そこは
当ブログで拾った「5年以内に新しいワクチンが次々出てくる」という情報と符合するのですが、
当ブログで拾った情報がどういう文脈のものかというと、


5年以内にワクチンが売り出される可能性があるとして並んでいる病気の顔触れも
なかなか興味深いので、ぜひ、覗いてみてください。

要するに「これからは、ワクチンが儲かりまっせぇ」という話。
ついでながら、同時期に、こんなニュースもありました。


こういうのが「世界」のトレンドであり「世界の常識」なのだとしたら、
この論文が言っている「待ったなし」とは保健施策としてのワクチン政策が「待ったなし」なのではなく
あくまでもビジネス戦略・経済施策としてのワクチン政策が「待ったなし」……という話?

だって「今後の日本を支える数少ない成長分野としてワクチン産業」を位置づけられるってな、
結局、そういうことでしょう?

グローバル化したネオリベ世界で日本が生き残るために、
今後5年以内にかけて到来する“ワクチン黄金時代”に乗り遅れないように、
そのためには日本でもワクチン産業を活性化しなければ、
そして、それを下支えするマーケットを形成しなければ……?

だから、日本の子どもたちに、
ワクチンをもっと打ってもらわなければ……なんですか?

2010.03.05 / Top↑
Washington州の尊厳死法施行1周年を前に
True Compassion Advocates という団体がワシントン大学医療センター前で
同法に抗議するデモを行うと発表。

ただ、この記事の数字は、他の報道とはかなり違っているのは???

ここでは、52人が同法を利用して自殺。
全部で80件の申請があり、そのうち72人に致死薬が売られた、とされている。

(この件では記事は沢山出ていますが、これ以外は「少なくとも36人」と同じなので
この記事の52人は、ちょっとおかしいのでは、と思います。)

気になる記述として、80人のうち、
未治療のウツ病のチェックで精神科医の診察を受けたのがたった4人だった、という点。

重病の人がうつ病になるのはよくあることなのに、少ないではないか、と。

それから、TCAの会長 Eileen Geller氏は、
尊厳死法の報告義務がそれほど厳しくないことから
実際にはもっと多くの人が同法のもとで死んでいるのではないか、とも懸念。

また、TCAのもとには、この1年間に
自殺しなければいけないかのような圧力を感じる高齢者からの電話が寄せられ、
同法によって醸される「死ぬ義務」の空気に、弱い立場の人たちを案じる医療職の声も
届いており、これらは尊厳死法の「コラテラル・ダメージ」だ、と。

2010.03.05 / Top↑
WA州とOR州から、それぞれ尊厳死法で自殺した人に関する
2009年分のデータが出ている。

まず、WA州の尊厳死法は、施行からの9カ月間で
29人の医師が63人に致死薬を処方。

そのうち死んだ人は47人で、
その致死薬を使って死んだことがはっきりしているのは36人。
7人は別の原因で死んでおり、
残りは死因がまだ明らかになっていない。

(別の死に方をした人が持っていた致死薬は誰がどのようにトラッキング・回収するのか、
私はずっと気になっているんですけど、ご存知の方があったら、ご教示ください)

どういう人たちだったかという像は
これまでOregon州の尊厳死法で言われてきたのと同じで、

ほとんどが白人、学歴が高く、医療保険があって、癌患者だった。
全員が、この先、自律できなくなることを(losing personal autonomy)恐れていた。

NYTimesの記事にちょっと気になることが出ていて、
致死薬を求めた人のうち10人は「家族の重荷になりたくないから」という理由を述べている。

(7日追記。こちらのSeattle Timesの記事に、より細かい詳細が出ています。
http://seattletimes.nwsource.com/html/localnews/2011255213_death05m.html)

Washington州のプロライフの活動家は
先取り不安が自殺の理由になっていることを指摘し、
「自殺幇助運動は、人の不安をもてあそんで、自殺へとあおっているが、
不安にするのは医療じゃない。
不安だから死にたいという患者に手を貸す医師は
患者をも、医師の倫理基準をも裏切っている」と。

また、Oregon州では、08年の60人よりも1人少ない59人。
年齢は48歳から95歳で
全員が州の西部に在住だった。
ほとんどの人が医師から余命6カ月以内だと告げられていた。

(西部に在住というのは、どちらかというと富裕だったということを意味するのでしょうか?)

Wesley J. Smithは今後、合法化する州が増えることを懸念し、

自殺幇助合法化には巨額の資金が投入されて世界的規模のキャンペーンになっている。
主流メディアも一緒になって、
「病気や障害のある人には、死こそエンパワメントであり合理的」と説いている。

苦しいから自殺したいという人のいうことを聞いていると、
自分以外の人の苦しみや、他の人が死にたいという理由は自殺幇助に値しないけど、
自分の苦しみだけは自殺幇助に値する理由だと考えている、と。




Smithの指摘には、Debbie Purdyさんが頭に浮かんだ。
いつも自分と自分の夫のことしか頭にない、想像力の欠落した人だ。
そういう人だからこそ、よけいに合法化ロビーの広告塔として都合がいいのだろうけど。


なお、これまでに出てきた両州のデータについては、以下に。
(関連リンクも文末にあります)

2010.03.05 / Top↑
自殺幇助関連

一貫して合法化に反対してきた Baroness Finlayが今回のガイドラインについて寄稿。対象者をターミナルな人や障害者に限定しなかったことや、医療者の関与を厳しく捜査対象としたことを評価しつつ、医師は自殺幇助をオプションとしてはならない、それよりも患者の苦しみを取り除くことに専心するように、と。
http://www.walesonline.co.uk/news/columnists/2010/03/04/in-the-debate-over-how-to-treat-the-seriously-ill-doctors-must-redouble-efforts-torelievedistress-not-simply-process-death-by-appointment-91466-25958835/

運動ニューロン障害(MND)協会からガイドラインに対する反応。奇妙に中立的でありながら、正面からもっと終末期医療の議論が必要、としている。
http://www.barchester.com/Healthcare-News/MND-Association-pleased-with-DPP-assisted-suicide-guidelines/376/3323

Timesが、これまで論争に登場した主要人物それぞれから、ガイドラインに対するコメントを取っている。そろそろリアクションも出そろってきたので、一度情報をとりまとめようと思ってはいる。でも、まずはガイドラインそのものを読まなくちゃ。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/article7040908.ece


Ashley事件関連

08年1月のCalvin大学でのDiekema講演がiPhoneで無料聴けるらしいのだけど、アプリしか入れていないので今のところ聞けない。気分が悪くなること必定なので、今さら、こんな恥知らずの講演は聞きたくもない、という気がしないでもない。
http://itunes.apple.com/us/podcast/the-january-series-calvin/id252871072


その他

日本語。遺伝子で自分に適したダイエット方法を見つけられます、と米の研究者。:前に、子どもの遺伝子を調べて、その子の適性に応じたスポーツを習わせるという米国の話もあったな、そういえば。こういうの、やっぱり商売になると思えばこそ研究資金も出てくるし、「可能性がある」という段階から先走りで結果が流されるんだろうなぁ。それにしても、このニュースはYahoo!のトップにあった。不思議な日本のメディアの優先感覚。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100304-00000835-reu-int

日本語。イラクで、ベトナム戦争での枯葉剤みたいなことが起こっている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100304-00000126-jij-int

オーストラリアでメディケア創設以来の大規模な医療改革が発表されたとか。看護師団体から歓迎の意。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/181052.php

米国ではメディケアの大幅カットで、医療を受けられない高齢者の急増が懸念されている。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/181009.php

Genetics & IVF Institute (GIVF)がWashington D.C.地区の40歳以下の女性向けに、Personal Egg Bankingサービスを開始。若いうちに良質な卵子を凍結保存しておきましょう、と。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/180995.php

先週の米国東部の猛吹雪の際、病院に出勤しなかったスタッフが解雇されている。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/03/03/AR2010030303833.html

米国の有名高校の生徒たちがUSBを使って先生たちのパスワードを盗み出し、成績を改ざんしていた疑いが浮上し、警察、検察、学校が捜査を開始。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/03/03/AR2010030303047.html

ダライ・ラマ氏がツイッターを始めたそうだ。
http://www.timesonline.co.uk/tol/comment/faith/article7048828.ece
2010.03.04 / Top↑
昨日、癌の子どもの終末期の記事でDiekema医師がコメントしているのを見て、
急進的な生命倫理を説く彼の師匠、Norman Fost医師が同じく終末期医療に関して
いかにも“らしい”コメントをしている記事があったのを思い出したので、以下に。

記事のテーマそのものは、
日本ではFost医師以上に注目されているRobert Truog医師の発言。

The New England Journal of Medicine の2010年2月号に、
Harvard医科大のRobert Truog医師が
“Is It Always Wrong to Perform Futile CPR?”というタイトルで
個人的なエッセイを書いて、自分がかかわった2歳男児のケースを論じつつ、

無益とされる心肺蘇生(CPR)について
それが親の気持ちのケアになるなら、実施に意味がある場合もあるのでは、と
問題提起している。

米国では心肺蘇生は行うことがデフォルトとなっており、
やらないためには患者本人または患者の許可を必要とする唯一の医療行為。

しかし、患者への侵襲度が非常に高い行為が、
もはや救命が不可能で、どんな治療も無益だと分かり切っている患者に
行われてしまうことには疑問・批判の声が起きている。

Troug医師が取り上げている症例は脳ヘルニアの2歳の男児。

手術を受けたが神経障害が重く、
将来的にも、なんら意味のある神経発達は起こらないと両親には知らされていた。

男児の心臓が止まった時に、Truog医師はこの子はもう死んだと思った。

しかし、手を尽くしてほしいと両親が望んだので、
チームは心肺蘇生術(CPR)を施すことに決めた。
諦めるまで15分。

男児が死んだ後、医療チームは彼に心肺蘇生をしたことに気持ちが重かったが、
両親が感謝していて、お礼を言ってくれたことにTruog医師は驚いたのだという。

インタビューで次のように語っている。

最初は、間違った判断だった、CPRはすべきではなかったと考えました。
しかし、家族が小さな子どもを抱いてお礼を言ってくれた瞬間に、
いや、我々は正しいことをしたのだと驚くべき考えを持ったのです。

エッセイは、まだ仮の結論として提示してみたものです。

しかし、子どもに意識がなかったのだから、
CPRによって子どもを苦しめたとは思えません。

振り返って考えると、善し悪しはともかく、
手を尽くしてもらったと悔いのない気持ちで
家族は病院を後にすることができたのです。
:

それに対して、
Indiana医大の癌専門医で倫理センターのディレクター、Pul R. Heft医師は、
家族の利益のために子どもにCPRを行うのだから
子どもを彼自身の福祉には無関係な目的のための手段としている、と批判。

患者はもう死んでいるとしても家族を癒すのだという医師はどこにでもいるが
家族を癒す方法は他にもたくさんある、と。

また、もう一人、ここでコメントしているのが
「無益な治療」論者のFost医師で、

効果のないことにNOが言えないとなったら、いったいどこに限度があるというのか。
家族のために蘇生してあげるという考え方は医療の目的を捻じ曲げている。

実に高価な心理療法ということになりますね。
家族の気持ちを楽にするために過酷なCPRをやりましょう、というんだから。


記事には、もうひとつ、同じジャーナルに掲載された
同テーマの個人的なエッセイが紹介されており、こちらは、

New York -Presbyterian/WeillCornell病院心臓科フェロー
Dr. Lisa Rosenbaumが90歳の祖母が「老衰」と診断された際の体験から、

老衰で死を待つだけの患者にも、家族が望むなら
手を尽くすことが医療者の職務である、とするもの。

もちろん医療上の判断は合理的に行うべきだし、
無益な治療が過剰に行われることは制限しなければ医療制度がもたないので
どこかの時点で諦めなければならないものがあるのは分かるが、

EBMによる合理的な治療効果のみで医療上の判断をするのでは不十分で、
「その判断をめぐる情についても考慮のうちに入れなければ、
どんなにたくさんのデータを持ってきても何も変えられません」と。

Murky Path in Deciding on Care at the End
The NY Times, February 23, 2010


この記事で発言している人たちが、依って立つ立場はそれぞれであるにせよ、
CPRをめぐる医療判断が如何にあるべきか、あるべき論や倫理問題を論じている中で、
ひとりFost医師だけは「それじゃぁゼニが青天井だろーが、ゼニが」と
それだけを言っているようにも聞こえる……。


ちなみに、Robert Truogといえば、
脳死を待たなくても本人の意志さえ表明されていれば
生きている内から臓器を採ってもいいことにしようと主張していることで
私は強烈な印象を受けた倫理学者で、

その主張については小松美彦氏も「脳死・臓器移植の本当の話」で書いておられますが、

意外なことに、2007年の重症障害乳児の無益な治療訴訟Gongales事件の際には
延命治療中止を決めたテキサスの病院の決定について批判しています。

その際の論点3つは、以下のエントリーにまとめてありますが、
今それを振り返ると、なるほど、このエッセイの主張は
確かにGonzales事件の批判と同じ地平にあるなと了解できる気がします。

2010.03.04 / Top↑
自殺幇助関連

スコットランドの自殺幇助合法化法案については、パブコメを募集することになった。来週から10週間。
http://news.scotsman.com/politics/Call-for-views-over-assisted.6118614.jp

3月2日の夜、Public Broadcasting Servicesが06年にDignitasで自殺したALS患者Ewert氏の映像を含む、Dignitasに関する特番を放送する、という記事。このリンクの記事の段階で、既にEwert氏の自殺場面の映像は20の国と州で上映されていたけど、今後もまだまだ流されるのでしょう。
http://www.culturekiosque.com/nouveau/news/suicide_tourist_dignitas472.html

Exit Internationalの創設者オーストラリアのDr. Death ことDr. Nitshkeがネット上で自殺指南書を販売しているサイト、the Peaceful Pillを見つけた。致死薬 Nembutalを手に入れる方法とか、それに関連した法律事項の解説もあるらしい。驚くことに、そのパンフレットだけでなく、ヘリウム自殺をする際に頭からかぶるフードのことではないかと思うのだけど、「Helium Fittingの購入はこちら」というボタンまである。もちろん、おとといの補遺で拾ったアイルランドでのワークショップのコマーシャルも。
http://www.peacefulpillhandbook.com/

Juristという法曹関係サイトにC&Cの会長Barbara Coombs LeeさんがDPPのガイドラインを歓迎する一文を投稿している。
http://jurist.law.pitt.edu/hotline/2010/03/uk-assisted-suicide-guidelines-move.php

Ashley事件関連

また、起きたぞ。Ashley事件で動きがあるとネット上で起こる怪現象。今度のタイトルは「以下のことがどのようにAshleyの発達を阻害するのだろう」。でも中身は、いつもと同じ2007年1月当初のAP通信記事のコピー。例の「親のブログを読もう。この問題を議論しよう」という一行がある記事、ね。今回も、いかにもそれらしい科学とテクノのサイトに。アップされたのは3月2日。近々、なにか動きでもあるのか?
http://www.kensjvprojects.com/coloncancersurvivability/cancer-risk-by-state/how-will-the-following-hender-the-normal-development-of-ashley

その他

日本語情報。薬害オンブズパースン会議 というものを教えてもらった。覗いて見ていたら、SSRIとファルマゲドンという記事の、ファルマゲドンという造語が印象的だった。“ファルマゲドン”は現実にグローバルに起こっている、と私も感じるし。

英国NHSの赤字深刻。3分の1のプライマリートラストが赤字で、手術の数を減らしたり、外傷部門が閉鎖に追い込まれたり。
http://www.guardian.co.uk/society/2010/mar/02/nhs-primary-healthcare-trusts-cuts

13人の女性を殺害したヨークシャーの切り裂き魔、Peter Sutcliffe に、釈放の可能性が浮上している。その場合は、終生、別の名前を与えられることになるのだとか。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/crime/article7045967.ece

14歳の少女に性的いたずらをして、それを明るみに出されそうになると嫌がらせをして少女を自殺に追い込み、その兄には濡れ衣を着せて逮捕して拷問し、自分は政治家のコネで着々と出世を続けたインドの警察官。こういうことが日常的にまかり通っているインド社会に、民衆の不満がくすぶっている。:それでも新興経済大国インド。
http://www.nytimes.com/2010/03/03/world/asia/03india.html?th&emc=th

ノルウェイの研究で、生殖補助医療での出産は、出船のプロセスにも子どものアウトカムにも影響しない、と。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/180735.php

ついに米国議会のTOYOYA問題の公聴会で「日本車を禁止しよう」という声まで出たそうな。そういえば夕方のCNNで、日産もリコールとか、言ってたような。
http://www.usatoday.com/money/autos/2010-03-02-toyota-hearing-japanese-cars_N.htm?csp=DailyBriefing
2010.03.03 / Top↑
米国の小児科や癌治療に関連した複数のジャーナルが連携した特集の中に、
それぞれ子どもを癌で亡くした親と、脳腫瘍で子どもを亡くした親への
終末期医療に関する調査が報告されており、
多くのメディアが取り上げています。

特に前者のDana-Farber癌研究所とボストン子供病院の緩和ケアのディレクター
Dr. Joanne Wolfeらの論文(Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine)では
我が子の苦しむ姿を見るに忍びないので頼んだら
少ないながら一部の医師が「死を早め」てくれたという
親の証言が報告されている点が注目されているようです。

アブストラクトはこちら

調査は、1990年から1999年の間に癌で子どもを失った141人の親に、
子どもの終末期について聞いたもの。

19人(13%)が子どもの死を早めてほしいと頼むことを考えた、と言い、
9%は実際に、話題にしたことがあった。

また、34%が
振り返って、もしも我が子にコントロール不能な苦痛があったとしたら、
死を早めることを考えただろうと答えた。

肉体的な苦痛以外の苦痛に対しても死を早めることを考えたというものは
15%以下だった。

また、いくつかの癌末期の子どもの仮想事例について意見を聞いた質問では
集中的な痛みの管理に賛成した人が94%。
死を早めることに賛成した人が50%。

昏睡状態よりも、苦痛がある場合に
死を早めることを認める人が多かった。

また、介護負担を理由に死を早めることを考えると答えた親はいなかった。
一人だけ、医療費は考える材料かもしれない、と答えた。

少数ながら、実際に子どもの死を早めてほしいと医師に頼み、
医師がモルヒネの投与で応じてくれたと報告する親もあったが
著者らは医師が必ずしも慈悲殺を行っているとは考えていない。
痛みの緩和のためにモルヒネが増量されて、そのすぐ後に亡くなったので
親が要望通りにしてもらったと誤解したのではないか、と。

Wolfe医師らは、
子どもが苦しんむことは考えるだけでも痛ましいので、
親も医師も終末期については口に出さないようにしているが、
どういう選択肢があるかを知らされていない親が
いざという時に苦しませないためには死を早めることしか考えつけないのではないか、

もちろん痛みを完全に取ってあげますと確約はできないにしても、
あらかじめ苦痛についても集中的な症状管理の可能性についても知らせておくことで
患者にとっても家族にとっても、終末期の耐え難さを減らせるのではないか、と。


Parents say doctors hastened death for dying kids
AP (The Seattle Post-Intelligencer), March 1, 2010




S-PiのAP通信の記事にDiekema医師のコメントがあり、
この調査結果は驚くにあたらない、と述べています。

少数ですが、子どもの苦しみを終わりにしてやりたいという親の望みに
医師が応えてあげることはあると思います。

鎮静や痛みのコントロールのための薬には呼吸抑制の作用がありますから、
そういう薬を使うことも含めての話ですが。

たいていの医師は、呼吸を止めるほどの量を意図的に使うことはしませんが、
中には苦痛を緩和する過程で呼吸が止まったとしても
それに対しては介入しない方がいいと考える医師もいます。

なんと、興味深いのだろう……と思うのですが、
USNewsの記事のコメントは、Kansas Cityの
Children’s Mercy HospitalのJack Lantos医師。

つい先日Ashley事件の倫理委を
AJOBのコメンタリーで痛切批判し、
Fost医師とのネット討論でも「あの倫理委で何があったか誰にも分からない」
痛切批判してくれた、あの小児科生命倫理学者さん。

この問題でも、二人の捉え方には微妙な差があって、
Lantos医師の方は、「死を早めた」と表現されているものの内容は
通常、安楽死や自殺幇助と考えられているものとは違うのだ、ということを言います。

自殺幇助では命を終わらせる明確な目的を持って薬を使うのに対して、
この調査で「死を早めた」と語られているケースでは
子どもの苦痛の緩和を目的に使われた薬に
死を早める可能性が副作用としてあるということに過ぎない。

死を早めるというのは、安楽死とも自殺幇助とも違います。
それは微妙だけれど、重要な違いなのです。

この2人のコメントの微妙な違いもまた重要。
そして、その違いが、また、なんと興味深いことだろう。

Lantos医師は、医師の倫理観として、
親に頼まれて安楽死させることはあってはならないというところに明確に立っています。
だからこそ、苦痛緩和の結果として死が早められてしまうことと安楽死との微妙な差を
差として認識することの重要性を強調している。

それに対して、Diekema医師は
親に頼まれれば、消極的ながら、その親の気持ちに応えてあげる医師だって、
そりゃ、中にはいるでしょうね……と、事実上、言っているわけで、
苦痛緩和の結果と、目的としての安楽死に一線を引く必要を感じていないかのようだし、
一部の親の意向に沿う医師を容認しているとも受け取れるトーン。

なんて象徴的なのだろう。

私が懸念するのは、
調査した緩和ケア専門医であるWolfe医師らの意図や結論や主張とは
まったく別のところで、この結果(の一部だけ?)が独り歩きして、
Diekema医師の恩師であるFost医師などが押し進めている「無益な治療」論の
正当化に使われてしまうのではないか……。

「今でも障害児は中絶されているのだから
生まれてきた障害児を死なせたからと言って何が悪い?」というのが
Fost医師やPeter Singerらの、開き直り的「無益な治療論」の正当化理論。

そこから、
「今でも、ターミナルな小児がん患者は
苦しむのを見ていられない親の要望で死を早められているのだし、
そういう子どもたちの治療はもはや無益なのだから、安楽死させて、何が悪い?」
という論理への距離は、そう長くはない。

こちらの医療系のサイトなど、もう早速にも
死に至る癌の子どもに医師と親が安楽死を選択している」と
論文の内容とはずいぶん違うタイトルでこの件を報じているし、
論文の内容よりもDiekema医師のコメントが記事の中心になっている。


        ――――――

ちなみに、脳腫瘍で亡くなった子どもの親への調査では、
最期に近づくにつれ、神経障害が重症化することが特徴的で、
特に意思疎通ができなくなることが親にとって1つのターニングポイントだった、と。

また、親はそういう中でも希望を持ち子どもの回復力に期待を寄せつつ、
通常の生活を維持する努力を続けていた。

そのほか、親が共通して困難を感じていたのは、
家事、仕事、他の子どもの世話など、病気の子どものケア以外の責任とのやりくり。

また在宅での看取りを望んだ場合に、
十分なサポートが可能になる体制がないことも指摘されている。

こちらもまた、研究者らの意図は
問題のありかに気付き、対応を求めることにあるようなのだけれど、
意思疎通ができる・できないが親にとってのターニングポイントだったという部分などは、
やっぱり独り歩きするのでは……と、ちょっと不安も感じるところ。
2010.03.03 / Top↑

東大の島薗先生の挨拶と立命の立岩先生の発言部分が
立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」のサイトに公開されています。



立岩先生の発言から、日本尊厳死協会の井形昭弘会長の発言も容易に推測されて
たいへん興味深い内容です。

感じたこと、考えること、言いたいこと、沢山ありすぎて
読んだのはずいぶん前のことなのに、まだまとまりがつかないので、
とりあえず、激しい不快を感じた井形会長の「ダンディな死」発言についてのみ。

私は重い障害を持った子どもの母親としての個人的な体験から
障害や介護や医療を論じる際に不用意に美意識を持ち込むのはやめてほしい、と
ずっと考えて、ずっと、そう訴えてきました。

私たち障害のある子どもの母親は
一人では到底担い切れない負担の重い子育てや介護を
ろくに支援もない社会から「あなたが母親なんだから」と背負わせられて

ぎりぎりのところに追い詰められながら、かろうじて日々を生き延びるのに必死になっていると
今度はその姿を指差して「なんて美しい母の愛」
「どんな苦難も愛があればこそ」と無責任に手をたたかれ、賛美されてきた。

そうして「もう限界」「だれか助けて」との悲鳴を封じられてきた。

だから、「美意識の猿轡」は、もう、たくさん! 

ずっと前に書いた2冊の本(詳細は「ゲストブック」に)のテーマも
結局はそういうメッセージだったし、

このブログでも
介護を巡るダブルスタンダード・美意識(2008/10/27)にも
Gilderdale事件の際にも書いたし、

また「介護保険情報」誌の2007年7月号でも
Ashley療法論争の続報としてダブルスタンダードについて書きましたが、
(arsviのAshley事件のページを担当してくださっている堀田さんのおかげで、
読み捨てられる宿命だった月刊誌の連載が復活し、こうして読んでもらえるようになりました)

障害当事者も、障害児の家族も、世の中から
「にもかかわらず、弱音を吐かず、明るく強く生きる姿」を賛美され、それによって
無言のうちに「障害者らしく、障害児の親らしく、けなげに美しく生きよ」という
メッセージを送られています。

そのメッセージは、障害児・者や家族に向かって、あたかも
「人々に感動と勇気を与える社会のオアシスたれ」と言わんばかりで、
なんて勝手な言い草なんだろう……と、私はずっと反発してきました。

障害児・者や家族を社会のオアシスに祭り上げる人たちは
「愛と感動と勇気を、ありがとう。あなたのおかげで
自分がいかに恵まれて幸せかを教えてもらいました」と
たわけたことを平然とホザく。

そして、妙にネチっこく「ぐわんばってね」と言って、肩を一つ、ぽん、と叩いたら、
しごく満足した顔になって、立ち去っていく。

でもね。
私たち親子は社会のオアシスになってあげるために生きているわけじゃない。
社会の方こそ、手前勝手に「ありがとう」なんてウルウルしていないで
それよりも、私たちが助けを必要とする時に現実の手を貸してください。

だいたい、障害があろうとなかろうと、
他人の目に美しく生きなければならない人なんて、いません。
人を感動させるような生き方をしなければならない人も、どこにもいません。

美意識とは、
その人の痛み・苦しみと無関係なところに立っている傍観者の贅沢に過ぎない。

だから、同じように、
他人の目に美しい死に方をしなければならない人なんて、どこにもいません。

私たちの誰ひとりとして、
その死に方がダンディかどうかを傍から云々される覚えはないはずです。

日本尊厳死協会の会長が、安楽死議論の中に
「ダンディな死」という言葉で無責任な美意識を持ち込む――。

それは、井形昭弘という個人が
「私は自分がダンディだと考える死に方をしたい」と
好き勝手な個人的理想を口にすることとは、決定的に違う――。

そのことの意味に、井形会長が本当にまるきり無自覚だ……ということがあるだろうか。


Ashley事件でも「障害児の親の愛と献身」は
病院が世論を操作し、倫理委員会の機能不全を隠ぺいするための煙幕に使われました。

英国の慈悲殺擁護論でも「母親の愛と献身」が頻繁に振り回されて
そのウェットで甘ったるい情緒によって、
個々の事件の事実関係や当事者の実像をしっかり検証する必要から
多くの人の目を逸らせてしまいました。

障害や介護や医療の問題に無用な情緒と美意識が持ち込まれる時、
私は、そこには問題のすり替えや誘導の意図がぷんぷん臭うような気がする――。


2010.03.02 / Top↑
自殺幇助関連

オーストラリアのDr. Deathこと Dr. Nitschkeが3月19日にアイルランドで初めてのワークショップを行うことに。
http://www.irishtimes.com/newspaper/ireland/2010/0301/1224265372224.html

ジャーナリスト Zoe FitzGerald Carterが乳がんとなり自殺幇助を希望した母親の死について書いた本“Imperfect Endings: A Daughter’s Tale of Life and Death“が出版された。それについての記事。著者は合法化を支持する立場。
http://www.salon.com/books/feature/story/?story=/books/feature/2010/02/28/imperfect_endings_zoe_fitzgerald_carter_interview_ext2010

Final Exit NetworkのプロモDVDで、前身Hemlock Societyの創設者Derek Humphryが最初の妻が乳がんになって自殺した際に幇助したことを語っているのだけど、「理解のある医師から致死薬を手に入れた」と言っている。妻がいよいよそのつもりになる時まで、夫である自分が保管していた、最後に妻が時間を決めて家族と集め、お別れをした後で気持ちを変えなかったので、自分がコーヒーに混ぜて手渡した。妻はそれを一気に飲んで死んだ、と。それが事実だとすると、違法行為を行った医師がいるということなんだけれど、どうして捜査が入らないんだろう、と不思議でならない。
http://www.youtube.com/watch?v=wCqmj69XyGk&NR=1


その他

安易な「無益な治療」論に傾かない、Abingdon病院(米)緩和ケアチームの努力を丁寧に取材した記事。
http://www.philly.com/inquirer/front_page/20100228_A_look_at_the_new_field_of_palliative_care.html?viewAll=y

ターミナルな患者に在宅で終末期を過ごしてもらおうと英政府は言うけど、看護師不足と医師の個別計画策定能力不足で、そんなことは不可能だ、と癌患者の支援チャリティの調査。
http://www.timesonline.co.uk/tol/life_and_style/health/article7044550.ece


リビアとスイスの間で紛争が起こっているらしい。というよりもガダフィ氏が個人的にスイスを目の敵にしているだけのようでも。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/africa/article7042017.ece

いまだに米国の親の4人に1人は自閉症はワクチンが原因だと思っているのだとか。10人に9人は、それでもやっぱり病気予防にワクチンを打つ方が大事だというそうだけど。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/02/28/AR2010022804411.html

中絶が違法でないのなら、中絶以外の方法で女性がおなかの胎児を殺そうとすることも違法ではないのか。去年、17歳が通りすがりの男性にお金を払って流産目的でおなかをぼこぼこに蹴ってもらった事件で、判事が無罪としたことを受け、ユタ州議会に提出された法案(違法に妊娠中絶を起こそうとする行為を明確に違法と規定する)を巡る論争。:この論争、そのまま医師による自殺幇助にも適用できそうなのだけど、そうすると、英国の今回のガイドラインはやっぱり論理が転倒しているという気がしてくるところが興味深い。
http://www.nytimes.com/2010/03/01/us/01abortion.html?th&emc=th

グアンタナモの拷問の調査報告書で、関与した米国政府の弁護士が判断ミスを犯したとされた一方で、拷問に加担した医師や心理学者の過失は問われなかった。CIAやペンタゴンの医師や心理学者が効果的な拷問方法を編み出すプロセスに関わっているのは周知の事実なのに。という記事のタイトルは「モラルなき医師たち」。
http://www.nytimes.com/2010/03/01/opinion/01xenakis.html?th&emc=th
2010.03.01 / Top↑
英国DPPの最終ガイドラインの発表を受け、
Guardian紙のデータ・ブログに、
Dignitasで自殺した人、また登録会員の国別一覧が。

情報源はDignitas。

去年9月の暫定ガイドラインの発表時にも
BBCからグラフが出てきたことがありましたが、
今回はさらに詳細です。

ダントツはやっぱりドイツで563人。

それから英国の134人。
次いで自国スイスの112人。
次がフランスで93人。

その後、ぐっと減って、

オーストリア22人、
イタリア15人、
イスラエルとスペインとアメリカがそれぞれ13人。
スウェーデンが11人。
カナダとオーストラリアが9人。

ちょっと興味深いところでは
自殺幇助が合法化されているオランダ8人、ベルギー 2人。
これはDignitasがターミナルでない人も受け入れているからでしょう。

スイス自国民では、ここ数年、減少傾向が見られることも興味深い現象ではあります。

傾向としては、やっぱり欧米を中心に、南米にもパラパラという感じ。

アジアは少なくて、
2004年に香港、2006年にタイから、それぞれ1人ずつのみ。

日本人は自殺者、登録者ともに今のところゼロです。

2010.03.01 / Top↑
まず、2月25日に公表されたDPPの最終ガイドラインの現物はこちら

(私はまだ読めていません。なるべく数日中には読みたいと思っていますが)


【最終ガイドライン公表に関する報道】




UK publishes new rules for assisted suicide
The Associated Press(WP), February 25, 2010




【ガイドラインに対する反応】

Killing, with kindness / Saimo Chahal
Legal News, February 26, 2010/03/01

Debbie Purdyさんの弁護士がガイドラインを歓迎する、と。


Dignitasに妻を連れていったという男性が、
ガイドラインは自殺幇助合法化の議論そのものを回避している、と批判。
(上記、G紙の記事でDPPは合法化そのものは議会の仕事だとの見解を示しています)


癌患者でGPでもあり、合法化支持の発言を続けているAnn McPhersonさんが、
専門職の関与を明確に認めていない点でガイドラインは不十分だ、と。

Terry Pratchett welcomes assisted suicide guidelines
Lovereading.co.uk, February 26, 2010/03/01



英国MS協会はガイダンスの明確化は歓迎しつつも、
MS患者の終末期ケアと支援を確保する責任が、社会ではなく個人に負わされたままだ」と懸念。

MDU concerned about assisted suicide prosecution for GPs
healthcarerepublic.com, March 1, 2010

Medical Defense Union(医師のための最大の保険業者)から
医師は自殺幇助希望の患者の病状の証明を求められる立場にいるにもかかわらず、
医師、看護師その他医療職に対して起訴となるファクターがこの度追加されたことに
懸念を表明。患者から相談や要望を受けた会員には、とりあえずMDUに相談するように、と。

Law on assisted suicide is a worry
The Daily Mirror, February 28, 2010

これまでの議論でも既に高齢者にはプレッシャーがかかっており、
「家族の負担になりたくない」という高齢患者が増えてきている、という医師の証言。


お馴染み、カナダの安楽死防止連合(EPC)からの批判。

Clair Lewis: Disabled people need assistance to live, not die
The Independent, February 26, 2010/03/01

米国の障害者運動アクティビストからの批判。


上記記事を紹介するNDY
2010.03.01 / Top↑


これは「面白いもの」なのだか「ヘンなもの」なのだか単なる「文化の違い」なのだか、
私自身、ちょっと困惑気味なのですが、

好きなものをプリントしてオリジナルなTシャツを作ろうというコンセプトの
ネット販売サイト Cafe Pressに、

「Ashley療法は児童虐待」
「すべての子供に成長する権利がある」
「障害のある子供たちを守れ。Ashley療法に反対を」
「障害のある子供たちに成長抑制実験をやめよ」
などのサンプルが登場。

よだれかけにプリントした場合、
色は白、ピンク、ブルーから選べて10ドル。

他に、もちろん Tシャツ、バッジ、バッグ、カップ、犬用の衣服など
いろいろなものにプリント可。



最初に目にしたのがTシャツだったら、また違っていたのかなぁ。

最初に見たのが、よだれかけだったから余計そうなのかもしれないけど……
なんとなく、ざらっとした違和感がある。

こういうものが出てくることによって
ああ、もう、ここまで一般化しちゃったのかぁ……と思い知らされたショックもあるけど、

もっと、それとも違う何かが引っかかっている。
ただ、それが何なのか、どういう違和感なのか、うまく掴みきれない。
2010.03.01 / Top↑